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12. マンモグラフィ検診の偽陰性と高濃度乳房問題について

登録日:
2020-02-14
最終更新日:
2020-02-05

1.背 景

米国における高濃度乳房に関する通知の開始・法制化や,高濃度乳房の感度を補う乳房超音波検査に関するJ-STARTの結果が2015年に発表されたことなどを背景に,本邦でも2016年6月頃よりマンモグラフィ検診の偽陰性や高濃度乳房に関する議論が盛んになった.
対策型検診における乳房構成の通知に関する市区町村の対応に関しては,2017年の調査1)で全国1,700市区町村,もしくは市区町村(特別行政区を含む)のうち13.5%で,既に乳房構成に関して受診者への通知を開始していた.しかし,その半数の市区町村は通知後の受診者の対応を示していなかった.また,対応を指導している市区町村でも,その83%が死亡率減少効果のまだ明らかでない乳房超音波検診(検査)を勧め,さらに高濃度乳房が疾病や異常ではないにもかかわらず,16%の市区町村では精密検査の受診(診療)を勧めており,検診提供側においても乳房構成や高濃度乳房に関する十分な理解が進んでいないまま,受診者への適切な指導や情報提供が行われていない混乱した状況にあった.
海外の現状に関しては,任意型検診を主とする米国では乳房の構成の通知法制化が進んでおり,2019年の時点で50州中36州において既に通知が義務づけられていた2).一方,対策型検診を組織的に行っている欧州では,EUSOBI(European Society of Breast Imaging)の記載によれば,欧州30カ国で通知のための法を制定,および審議している国はなかった3)

2.高濃度乳房問題に対する対応の経過

上記の現状もふまえ,2017年3月乳がん検診関連3団体(日本乳癌検診学会,日本乳癌学会,日本乳がん検診精度管理中央機構)は,乳がん検診に従事する医療関係者,市区町村がん検診担当者,および検診施設向けに,乳房の構成に関しては通知後の対象者の対応(検査法など)が明示できる体制が整った上で実施されることが望ましく,全国の市区町村で「一律に乳房の構成を通知するのは時期尚早」との「対策型乳がん検診における『高濃度乳房』問題の対応に関する提言」4)を行った.
さらに,厚生労働行政推進調査事業費補助金「乳がん検診における乳房の構成(高濃度乳房を含む)の適切な情報提供に資する研究」班(笠原班)で,「高濃度乳房についての質問・回答集(QA集)」5)が作成され,2018年5月24日,厚生労働省健康局長通知 健発0524第1号6)として,都道府県を通じて各市区町村に配布された.この中では,「市町村の判断でがん検診の受診者に対し乳房の構成に関する情報を伝える場合に,適切な情報提供を行う観点から,機関内市町村および関係団体に対し,周知依頼する」と記載された.市区町村の行う対策型検診で指針となる『がん予防重点健康教育およびがん検診実施のための指針』では,検診の結果については,「精密検査の必要性の有無を附し,受診者に速やかに通知する」と定められており,乳房の構成に関する情報を伝えるかどうかに関しての記載はない.したがって現段階では,乳房構成を通知するか否かは市区町村の判断にゆだねられている.

3.今後の高濃度乳房に対する対応の方向性

今後の高濃度乳房に対する対応の方向性としては,がん検診のあり方に関する検討会(厚生労働省)において,以下が示された7)
① 高濃度乳房に対しても高い感度で実施できる検査方法について検討
② 高濃度乳房の判定基準の検討
③ 高濃度乳房の実態調査
④ 受診者が高濃度乳房を正しく理解できるよう,通知すべき標準的な内容を明確にする
⑤ 検診実施機関において,受診者に対し,あらかじめ乳房の構成の通知に関する希望の有無について把握する
これらについては,厚生労働科学研究費補助金(がん対策推進総合研究事業)「がん検診の適切な情報提供に関する研究」班(笠原班)で検討継続中である.また,受診者の正しい理解の一貫として,日本乳癌検診学会と協力してブレスト・アウェアネス(column参照)の啓発にも取り組んでいる.

4.考 察

マンモグラフィ検診乳房構成別の感度に関しては,宮城県と福井県におけるがん登録情報と照合したデータで,それぞれ「極めて高濃度」33.3%と51.1%,「不均一高濃度」68.3%と68.5%,「乳腺散在」78.9%と79.2%,「脂肪性」90.7%と100%であり,濃度が高いほど検出感度が低下する傾向が示されている.したがって,いわゆる「高濃度乳房問題」は,マンモグラフィ検診における偽陰性に関わる課題と言い換えて過言ではない.
乳房構成に関して適切な情報提供が行われれば,乳房に関する意識が高まり,定期的な検診受診や,症状出現時の適切な医療機関受診行動につながるなどのメリットがある一方,不適切,不十分な情報提供が行われた場合,デメリットとして心配による精神的苦痛や,結果的には不要となる追加検査による身体的・経済的負担が生じるため,情報提供には慎重な対応が必要である(図1).

情報提供のあり方としては,あくまで乳房構成と病変の隠れやすさは高濃度,非高濃度で線引きできるものではなく,連続的なもので,乳房の濃度が高い(白っぽい)ほうが病変が隠れやすい(偽陰性が多い),という理解が大切である.「高濃度乳房」という言葉が独り歩きしてしまい,受診者は特別な病態や疾患であるとの誤った認識を抱いている可能性が危惧される.「高濃度乳房」という言葉にとらわれ,高濃度,非高濃度と二分して論じるのではなく,マンモグラフィに写らない乳がんがあり,濃度が高いほど隠れやすくなること,すなわち「偽陰性問題」として検診実施者は情報提供を行い,受診者の理解を促し対処することが今後肝要である(図2).

また,通知を行う場合は,通知希望の有無を確認の上,高濃度乳房かどうかではなく,乳房の構成(脂肪性,乳腺散在,不均一高濃度,極めて高濃度)および,その後に取るべき行動について適切な情報提供を行うべきである.
通知を受けた受診者がいたずらに不安に陥ることのないような体制整備(説明体制,質問窓口,社会資源の整備など)が今後の課題である.



ブレスト・アウェアネスは「乳房を意識する生活習慣」であり,女性自身が自分の乳房の状態に日頃から関心を持つことで,乳房の変化を感じたら速やかに医師を受診するという正しい保健医療行動(受診行動)を実践できるようにする“乳房の健康教育”のキーワードである.
ブレスト・アウェアネスは,①自分の乳房の状態を知るために,日頃から自身の乳房を,見て,触って,感じる(乳房の健康チェック),②気をつけなければいけない乳房の変化を知る(しこり,皮膚の凹みや血性の乳頭分泌など),③乳房の変化を自覚したら,すぐ医師へ相談する(医療機関に行く),④40歳になったら乳がん検診を受診する(対策型 乳がん検診の受診),という4項目で構成される.
世界保健機関(World Health Organization:WHO)が提唱する乳癌死亡率減少を目的とする重要な医療政策は,ブレスト・アウェアネスと乳がん検診の普及である.検診マンモグラフィの目的は,乳癌症状のない早期乳癌の発見である.ブレスト・アウェアネスの目的は,既に乳癌の症状のある人に対して,その乳癌の初期症状を自覚して速やかに医師に受診するように勧奨して,進行乳癌を予防することにある.ブレスト・アウェアネスと乳がん検診は,乳癌を早期に発見して診断と治療をすることが可能となるので,乳癌の予後と生存率を改善させる基礎であると,世界的に考えられている.
ブレスト・アウェアネスの概念は1990年代のはじめ,世界で最初に英国で普及し,現在では米国を含む欧米で広く普及している.開発途上国で進行乳癌の比率が多い理由は,経済的な問題で検診マンモグラフィと医療サービスが整備されていないことに加え,ブレスト・アウェアネスの概念が普及していないことも大きく関係していると考えられており,WHOなどを通じて全世界にブレスト・アウェアネスの普及と啓発が盛んに行われている.
現在においても,世界中で,ブレスト・アウェアネスと自己触診は混同されていることが多く,ブレスト・アウェアネスと自己触診が同じであるという間違った解釈で理解・説明している乳癌関連団体や学会もまだ存在している.
ブレスト・アウェアネスは乳房の自己触診ではなく,乳房を意識することである.つまり,自己触診のように腫瘤を探すという行為ではなく, また定型的方法を用いず,定期的かつ強制的な手段でもなく, いつもの乳房と変わりがないか?という気持ちで,乳房の変化に気をつける生活習慣がポイントで,自己触診ではないということを理解することが重要である.ブレスト・アウェアネスは着替えや入浴, シャワーなどの際に乳房を見て,触って,感じるという乳房を自覚する生活習慣を身につけることにより,女性自身の乳房に対する関心や意識が高まり,乳房に変化があった場合にはすぐに医療機関を受診する適切な行動を取ることを身につけることが基本である.
ブレスト・アウェアネスを実践することで,マンモグラフィ偽陰性の場合でも,早期に乳癌を発見し,速やかに診断と治療が可能となる.つまり,ブレスト・アウェアネスの普及が,対策型乳がん検診の高濃度乳房問題に対する具体的な対応策の1つとなる.さらにブレスト・アウェアネスの推奨は,若年性乳癌の早期発見のための具体的な方策でもある.ブレスト・アウェアネスは乳がん教育を実践するための具体的なキーワードであり,これから教育現場で行われるがん教育でも積極的に取り入れられるべきと考えられる.

〈文献〉
1) 植松孝悦,笠原善郎,鈴木昭彦,他:ブレスト・アウェアネス─乳房を意識する生活習慣─.日本乳癌検診学会誌(2020年3月掲載予定).

文献

1) 厚生労働省健康局がん・疾病対策課:第21回がん検診のあり方に関する検討会(資料2 乳がん検診に関する実態調査結果)(https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10901000-Kenkoukyoku-Soumuka/0000158048.pdf

2) State Density Reporting Efforts-because your life matters® 36 State Density Reporting laws(http://areyoudenseadvocacy.org/dense/

3) Forrai G:EUSOBI:State of Screening in Europe(https://www.sbi-online.org/Portals/0/Breast%20Imaging%20Symposium%202016/Final%20Presentations/4-9%20930am%20Forrai%20-%20EUSOBI%20State%20of%20Screening%20in%20Eurpoe.pdf

4) 日本乳癌検診学会・日本乳癌学会・日本乳がん検診精度管理中央機構:対策型乳がん検診における「高濃度乳房」問題の対応に関する提言(http://www.jabcs.jp/pdf/DBrecommendation.pdf

5) 厚生労働省健康局がん・疾病対策課:第24回がん検診のあり方に関する検討会(資料1 高濃度乳房について)(https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10901000-Kenkoukyoku-Soumuka/0000208392.pdf

6) 厚生労働省健康局長通知:健発0524第1号 乳がん検診における「高濃度乳房」への対応について(https://www.mhlw.go.jp/content/10901000/000565428.pdf

7) 厚生労働省健康局がん・疾病対策課:第22回がん検診のあり方に関する検討会(資料2 乳がん検診における 「高濃度乳房」への対応について)(https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10901000-Kenkoukyoku-Soumuka/0000166903.pdf

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