株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

CLOSE

(3)敗血症性ショックの補助治療② 薬物療法の現状と課題 [特集:敗血症性ショックの最新診療]

No.4791 (2016年02月20日発行) P.32

笹野幹雄 (亀田総合病院集中治療科医長)

林 淑朗 (亀田総合病院集中治療科部長/クイーンズランド大学臨床研究センター)

登録日: 2016-09-08

最終更新日: 2017-01-27

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • next
  • 重症敗血症に対する補助療法において,生命予後を改善することが確認されている薬物療法は存在しない

    敗血症性ショックに伴う相対的副腎不全に対するステロイドの予後改善効果は不明で,現在,大規模臨床試験で検証中である。ショックの離脱には有効である可能性があり,高用量の血管収縮薬を要する症例では投与を検討する

    アンチトロンビン(AT)製剤は大規模ランダム化比較試験(RCT)でその有効性が否定され,国際ガイドライン(SSCG)では使用しないよう推奨されている。わが国での低用量使用は評価が不十分である

    トロンボモジュリン製剤の効果は未知で,現在行われている第3相試験の結果を待つべきである

    免疫グロブリン製剤が生命予後を改善するという質の高いエビデンスはない。2000年以降は大規模試験が行われておらず,この仮説自体がもはや有望でないと思われているのかもしれない

    シベレスタットは有効性を示す根拠が乏しく,大規模RCTでむしろ有害性が示唆されたため,使用すべきではない

    1. 重症敗血症診療におけるコントロバシー

    重症敗血症は,集中治療において一般的かつ死亡率も高い重要な病態であるが,そのマネージメントには様々なコントロバシーが存在する。特に,国際ガイドラインであるSSCG(Surviving Sepsis Campaign Guidelines)20121)と日本集中治療医学会から公表されている「日本版敗血症診療ガイドライン」2)(以下,日本版ガイドライン)の矛盾点や,日本版ガイドラインでのみ推奨されているわが国独自の治療戦略をどのように解釈すべきかは,わが国の医療従事者にとって大きな問題である。本稿では,このようなコントロバーシャルな問題のうち,相対的副腎不全に対する低用量ステロイド,敗血症性DIC(disseminated intravascular coagulation)に対する薬物療法,免疫グロブリン療法(intravenous immunoglobulin:IVIG),蛋白分解酵素阻害薬であるシベレスタットについて,主要な臨床研究を客観的に検証しながら解説し,私見を述べる。

    2. 敗血症性ショックにおけるステロイドの検討

    1970年代より高用量ステロイドの有効性が検証されたが,80年代に複数のランダム化比較試験(randomized controlled trial:RCT)で否定された。その後,90年代になると相対的副腎不全の概念を根拠に敗血症性ショックへの低用量ステロイド(ヒドロコルチゾン換算で200~300mg/日)の有効性が検討されはじめ,現在でも検証が続いている。
    代表的なRCTを2つ取り上げたい。
    1つ目は2002年にAnnaneら3)により報告されたRCTである。彼らは敗血症性ショック患者を,8時間以内にステロイド群とプラセボ群に無作為に割り付け,さらにACTH(adrenocorticotropic hormone)刺激試験に対する反応群,無反応群にわけて検討した。結果,無反応群では28日死亡率の低下が示されたが(53%vs. 63%,HR;0.54,95%CI;0.31~0.97),すべての患者および反応群で差は認めなかった。この結果をもとに, SSCG 2004では,輸液に反応せず血管収縮薬を要する敗血症性ショック患者に対して200~300mg×7日間のヒドロコルチゾン投与が推奨されるに至った。
    一方,その後行われたCORTICUS4)では,異なる結果が報告された。この研究では,敗血症性ショック患者を72時間以内にステロイド群とプラセボ群に無作為に割り付け検証されたが,結果,患者全体,反応群,無反応群のいずれにおいても28日死亡率に差を認めなかった。
    2つのRCTの概要を表1にまとめた。重症度スコア,乳酸値,プラセボ群の死亡率などから,CORTICUSのほうが明らかに軽症の患者を対象としている。重症度の低い患者にはステロイドの有効性が低く,むしろ感染などの有害性が上回り,重症患者で得られる有効性を相殺した可能性がある。また,ステロイド開始までの時間がCORTICUSのほうが長く,敗血症が改善傾向となっている患者にも投与された可能性がある。CORTICUS以降,複数のシステマティックレビューが報告されているが,生命予後に関しては一定の結論は得られていない。ショックの離脱に関しては,多くの研究でステロイド群が有効と結論づけている。
    このように,CORTICUSの問題点やショック離脱には有効という結果などから,強い科学的根拠はないまま,輸液と血管収縮薬に不応性の敗血症性ショックに対するステロイドの臨床使用は続いており,SSCG2012でも弱く推奨されている。なお,ACTH刺激試験については,相対的副腎不全における検査方法が定まっていないことと,CORTICUSで有用でないことが示されたことから,現在では行わないよう推奨されている。
    結論として,現時点では敗血症性ショックに対し低用量ステロイドが生命予後を改善するかどうかは不明であるが,重症例では検討の余地がある。筆者らの施設では,高用量の血管収縮薬を要する敗血症性ショック症例ではヒドロコルチゾン200mg/日を投与し,ショックを離脱しだい,速やかに漸減・終了するというプラクティスを採用している。現在,ステロイドの予後改善効果を明らかにすべく大規模RCT(ADRENAL study,NCT0144 8109)が行われており,結果が待たれる。

    残り8,366文字あります

    会員登録頂くことで利用範囲が広がります。 » 会員登録する

  • next
  • 関連記事・論文

    もっと見る

    関連書籍

    もっと見る

    関連求人情報

    関連物件情報

    もっと見る

    page top