冠動脈バイパス手術(coronary artery bypass grafting:CABG)において両側内胸動脈を利用することが推奨されています。しかし,高齢者にとってどこまで意義があるのか,糖尿病患者にリスクはないのか,多枝病変に対する完全血行再建におけるグラフトデザインの工夫は何か,など実臨床で両側内胸動脈を使用する上で様々な疑問があります。両側内胸動脈の適応と実際について,熊本大学・福井寿啓先生にご教示頂きたく存じます。
【質問者】
岡本一真 明石医療センター 心臓血管低侵襲治療センター長
CABGでは,使用するグラフトやその使用方法などが常に議論となっています。現在使用されているグラフトの中で,内胸動脈はその他のグラフトに比べ動脈硬化になりにくく,長期的開存率も高いため,最もよく使用される動脈グラフトです。特に左内胸動脈は心臓に近いこともあるため,古くからin situグラフトとして広く利用されてきました。
日本循環器学会のガイドラインでは,左前下行枝の血行再建に左内胸動脈の使用を第一選択としており(Class Ⅰ),多くの外科医は左内胸動脈を左前下行枝に吻合していると思われます。現在までのところ第二の動脈グラフトとして右内胸動脈,橈骨動脈,右胃大網動脈が考えられています。その中で右内胸動脈は解剖学的に左内胸動脈と同一であるため,動脈硬化になりにくく開存率に優れているという特徴は最大のメリットと考えられます。
日本循環器学会のガイドラインでも両側内胸動脈の使用は術後遠隔期のmortalityおよびmorbidityをともに低下させるとしています(Class Ⅱa)。最近のメタ解析でも,両側内胸動脈を使用することで,片側内胸動脈に比べ遠隔期の生存率がより向上することが報告されています。しかし,海外での報告では両側内胸動脈の使用は10%にも満たないと言われており,その理由として,採取に時間がかかる,胸骨骨髄炎が増える,などが挙げられています。
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