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(3)iPS細胞による治療の現状 [特集:高齢社会で増加する加齢黄斑変性 ─ 滲出型の治療の今]

No.4829 (2016年11月12日発行) P.39

栗本康夫 (神戸市立医療センター中央市民病院眼科部長/先端医療センター病院眼科統括部長)

登録日: 2016-11-11

最終更新日: 2016-11-09

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  • 滲出型加齢黄斑変性(age-related macular degeneration:AMD)に対する現行治療の目的は薬物やレーザーによる新生血管の抑制にあるが,これは対症療法ゆえの限界を有している

    本疾患発症の背景にある網膜色素上皮(retinal pigment epithelium:RPE)の劣化を治療することができれば,AMDの根治的治療になる可能性がある

    過去に試みられたRPE移植治療は倫理的・免疫学的問題,過大な手術侵襲などの問題を抱えており標準的治療とはなりえなかったが,iPS細胞をドナー源として用いるとこれらの問題を解決できる

    筆者らは,初のiPS細胞治療となる滲出型AMD患者自家iPS細胞由来RPEシートの網膜下移植に成功し,主要評価項目である1年経過時点での安全性の確認が達成された。広く臨床実施可能な治療の開発に向けて新たな臨床研究を計画中である

    1. 加齢黄斑変性(AMD)の現行治療

    AMDの原因は十分に解明されてはいないが,加齢に伴うRPEの疲弊・劣化が背景にあると考えられており,加齢に加えて喫煙などの環境因子や遺伝的要因も発症リスクであることが知られている。
    AMDは脈絡膜新生血管(choroidal neovascularization:CNV)が関与する滲出型と,CNVの関与なくRPEが萎縮し,視細胞も変性していく萎縮型の2型にわけられ,わが国では滲出型の頻度が高い1)。視機能の障害は,萎縮型よりも滲出型のほうが急速かつ深刻である。萎縮型のAMDには今のところ有効な治療法がないが,滲出型AMDに対しては,本特集の他稿にもあるように,近年,光線力学療法や抗血管内皮増殖因子(vascular endothelial growth factor:VEGF)療法などのCNVを選択的に抑制する治療法が導入され,現在では抗VEGF療法が滲出型AMDに対する第一選択治療となっている2)
    抗VEGF療法の導入により滲出型AMDの予後は大きく改善したが,AMD発症の背景にあるRPEの劣化を治療できるわけではない。多くの症例ではCNVを持続的に抑制するために延々と抗VEGF薬の硝子体内注射を行い続けなければならず,長期的な予後には限界がある。さらに,抗VEGF薬への反応には個体差があり,治療への反応不良例も稀ではない。現行の標準治療は対症療法ゆえの限界を有しているが,一方で,AMD発症の背景にある加齢劣化したRPEそのものを治療することができれば本疾患の原因治療になる可能性がある。

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