No.4778 (2015年11月21日発行) P.14
登録日: 2016-09-08
最終更新日: 2017-02-08
塀と柵に囲まれた刑務所の中でも医師が働き、医療を提供している。受刑者の健康管理や感染症の予防などを担う医師を「矯正医官」という。法務技官(国家公務員)でもある彼らの行う医療は「矯正医療」と呼ばれる(図1)。
矯正医官は、身体・精神疾患のケアを通じて受刑者の社会復帰を助ける役割を担っているが、その実像は外から見えにくい。そこで今回は、刑務所を訪ね、矯正医官の実際に迫ってみた。
「知名度は低いですが、矯正医療は重要な国策の1つ。医療を通じて社会の安全に貢献しています」
こう話すのは、日本最大の刑務所・府中刑務所で矯正医療を統括する宮下洋医務部長。矯正医官5人を含む医務部39名を率いる。大学病院の勤務医から転身し、矯正医官のキャリアは5年目だ。
宮下氏によると、矯正医官の仕事は、受刑者相手の仕事だけに「危険」というイメージが先行しがちだが、診察・検査等には必ず刑務官が付き添い、医官と受刑者が2人きりになる場面はない。受刑者が問題ある行動を起こせば、直ちに刑務官に連れ出されるため、身体の安全は保障されており、「むしろ一般病院より安全かもしれない」という。
一般社会同様、刑務所でも高齢化が進んでおり、府中刑務所では受刑者の25%程度が60歳以上。大半が高血圧、糖尿病等の慢性疾患を抱えている。
府中刑務所の受刑者には、薬物使用経験のある暴力団関係者が多く、注射の回し打ちによるC型肝炎、そこから進行した肝硬変も一般的だという。刑務所の方針で、HIV、開放性結核、人工透析、覚醒剤精神病などの受刑者も重点的に受け入れている。
診察室では「詐病」への対応も多い。「懲役刑は所内の工場で労働させられるわけで、本心ではサボりたいと思っている者もいます。だから、腰が痛くて歩けないなどと重症を装う者もいるのです」
詐病か否かは、所内で連携を密にとり、「元気に歩いていた」などの情報を得て判断するという。
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