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高齢者の大動脈弁狭窄症に対する治療

No.4724 (2014年11月08日発行) P.50

小宮達彦 (倉敷中央病院心臓血管外科主任部長)

登録日: 2014-11-08

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

大動脈弁狭窄症に対し,近年,わが国にもカテーテルによる大動脈弁置換術〔(transcatheter aortic valve replacement:TAVR),もしくは経カテーテル大動脈弁植込み術(transcatheter aortic valve implantation:TAVI)〕が導入され,当院も2014年に導入しました。TAVRの適応になる症例は,ガイドライン上,肺機能障害などのcomorbidityがあり,外科的に手術が困難であるが,大動脈弁置換術(aortic valve replacement:AVR)の適応がある患者さんということになります。
ところが,TAVRでも特に心尖部アプローチ(transapical:TA)で行った場合,左心室が小さな患者さんでは左心室内にデリバリー用のシースを入れただけで,左心室内腔を塞いでしまうことや,再手術の際には,癒着した心基部とカテーテルを挿入する心尖部両方を固定することで心収縮のパターンが不良となり,血行動態が不安定になることがあります。
(1) 特に左心室が小さいと思われる日本人に,TAで行う場合の注意点を。経皮的心肺補助法(per-cutaneous cardiopulmonary support:PCPS)などの補助手段をあらかじめ行って治療するなどの方法をとりますか。
(2) 開心術のAVRとTAVRの適応において,どちらの治療を選択するかという点で,frailtyの評価が非常に重要なポイントと思います。frailtyを評価する場合,内科・外科医師の間でコンセンサスが得られるような指標を使っておられますか。
以上,倉敷中央病院・小宮達彦先生のご回答を。
【質問者】
三隅寛恭:聖路加国際病院心臓血管外科部長

【A】

TAVRについては海外での成績は向上しており,AVRとの適応のせめぎあいがこれからも重要な問題になってくるところです。
(1)日本人へのTAVR
日本人におけるTAVRの問題点の1つは,ご指摘のように欧米人と比べ体格が非常に小さい人が多いということです。そのため,左室内でのガイドワイヤーなどの影響を十分考慮する必要があります。TAの場合のデリバリーシースの影響ですが,通常は心腔内には3cm程度入っているものの,左室流出路内まで挿入しない限り,心拍出への影響は軽微なものと考えています。前拡張後にデプロイ前の人工弁が大動脈弁位にある状態では大動脈弁閉鎖不全症(aortic regurgitation:AR)に加えて大動脈弁狭窄症(aortic stenosis:AS)状態でもありますので,位置決めに慎重になるあまり,時間をかけすぎないことが重要です。
特に左室機能が低下している場合は,緊急用のPCPSをすぐに使用できるようスタンバイしておくことです。さらにPCPS用の送脱血管をどのルートから挿入するかも,事前に決めておく必要があります。大腿からのアクセスが不足する場合は,鎖骨下動脈にガイドワイヤーを挿入しておくなどの準備も考慮する必要があるでしょう。
(2)frailtyの評価
frailtyの評価は患者さんを直接見ることができれば,一番よいのですが,カンファレンスでは難しいので,客観的な評価を用いるようにしました。PARTNER trialで使用していた4つの指標,握力,300m歩行時間,Katz index(ADL評価),アルブミン値です。
frailtyのみでTAVRの適応にすることはあまり考えていません。たとえTAVRが成功しても,長期予後が不良なことが多いようです。ただし,ASの存在によりADLなどが低下している可能性があるような場合は,バルーン拡張術を行ってみてADLが改善するようであれば,TAVRの適応と判断できます。

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