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癒合歯の機序は? 【母親の状態や遺伝との関係】

No.4800 (2016年04月23日発行) P.61

後藤仁敏 (鶴見大学名誉教授)

小林美樹子 (こばやし歯科クリニック副院長)

登録日: 2016-04-23

最終更新日: 2016-12-15

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【Q】

上顎の1番2本が癒合して正中部に1本ある事例をみましたが,これも含めて一般的な癒合歯の機序をご解説下さい。遺伝的背景も知られているのでしょうか。 (兵庫県 K)

【A】

癒合歯は,隣り合う2つの歯胚が顎の中で成長する過程で癒合した結果,2本の歯が癒合した状態で生えたものです。共通の歯髄と象牙質を持つものを癒合歯,歯根表層のセメント質が肥厚する過程で癒着したものを癒着歯と言います。
前者のうち,正常歯と過剰歯が合体したものを双生歯と言います。双生歯は,臼傍結節や臼後結節が発達したもの,あるいは臼傍歯や臼後歯が癒合したものとみることができます。
癒合歯は乳歯にみられることが多く,1番多いのが下顎の乳側切歯と乳犬歯,2番目が下顎の乳中切歯と乳側切歯で,3番目は上顎の乳中切歯と乳側切歯です。稀に永久歯にみられることもあります。図1 (文献1)は下顎の側切歯と犬歯にみられた癒合歯です。図2 (文献2)は下顎の側切歯にみられた癒合歯で,側切歯と過剰歯である第3切歯が癒合しためずらしい双生歯の例です。乳歯では2~3%,永久歯では0.3%の頻度と言われます。
癒合歯は胎児期に形成されることが多いため,その原因を母親の栄養不良など全身状態の異常や,病気,薬物とする見方もあります。しかし,正常な状態でも形成されることがあり,ヒトの顎が進化の過程で短縮してきたことにより,歯胚同士の間隔が狭くなったために隣り合う歯胚が癒合した結果と考えられます。人類の歯の退化の1つの現象と言えます(文献3)。乳歯に出現した癒合歯は,その後に生えてくる永久歯に歯の欠如や癒合歯がみられる確率を高くし,歯根が大きいので歯の交換も正常でないことが多いのです。永久歯が欠如していなくても,歯の生える場所が狭いので,歯が回転するなど歯並びの異常も起こりやすくなります。また,癒合した境界が溝になっており,プラーク(歯垢)という歯の汚れがつきやすく,むし歯(う蝕)になることがあります。シーラントで溝を埋めることも有効です。癒合歯は異常歯とはいえ,普通に生えて機能しているのなら,そのままにしておくのがよいと思います。
遺伝的な原因で癒合歯が起こるという見解もあります。コーカソイドの女性に3世代にわたって下顎乳切歯に癒合歯がみられたという報告(文献4)や,常染色体優性遺伝とする説(文献5)もあります。コーカソイドの6倍もの癒合歯がみられる日本人についての研究(文献6)では,41例の永久歯の癒合歯のうち,4例だけに家族性がみられ,劣性遺伝であるとしています。

【文献】


1) 田中宣子, 他:鶴見大紀 保育・歯衛. 2015;52(3):13-26.
2) 後藤仁敏, 他:保健つるみ. 2010;33:14-33.
3) 後藤仁敏, 他:歯の比較解剖学. 第2版. 医歯薬出版, 2014, p236-42.
4) Ali DA, et al:J Am Dent Assoc. 2002;133(6):734-7;quiz 768-9.
5) MusKusick VA:Mendelian Inheritance in Man. 8th ed. Johns Hopkins University Press, 1986, p1-425.
6) 三好作一郎, 他:歯基礎医会誌. 1994;36(6):636-43.

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