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通信添削講座はクーリング・オフできますか?

No.4773 (2015年10月17日発行) P.64

齋藤雅弘 (四谷の森法律事務所弁護士/ 一橋大学法科大学院非常勤講師/ 早稲田大学法科大学院非常勤講師)

登録日: 2015-10-17

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

通信添削講座を申し込み,1回目の教材を受け取りましたが,内容が不本意だったのでクーリング・オフを申し出ました。すると,講座の運営会社から,教材裏側に受講者氏名と会員番号が印字してあるため返本できず,クーリング・オフには応じられないとの回答がありました。
(1) 通信添削講座の教材や書籍などの場合は,ほかの商品と違って返金ができないとされる制度・法律があるのでしょうか。
(2) クーリング・オフは適用されませんか。
(3) 通信販売の場合はどうなるのでしょうか。
(岐阜県 K)

【A】

[1]契約は理由なく解除(キャンセル)はできない
通信添削講座の受講は,知識や技能等の教授という役務(サービス)提供を目的とした「契約」です。
契約は,いったん締結すると,相手方に契約違反があった場合(民法第540~543条)や契約締結に際し重要な事項に誤認があったり(民法第95条),相手方の不当な勧誘(不実告知等)がある場合(消費者契約法第4条)など,法律上正当と認められる理由がない限り,一方当事者から契約を解除(キャンセル)したり,その効力を否定することはできません。
[2]クーリング・オフの可否
取引の形態や契約の種類によっては「クーリング・オフ」と呼ばれる権利が法律によって規定されている場合があります。法律によってこの権利が認められる契約の場合,一定の期間内であれば理由を必要とせずに契約を解除できることがあります。
しかし,クーリング・オフができるのは,法律によってクーリング・オフができることが認められている場合に限られ,ご質問の場合も通信添削講座の受講契約が法律によってクーリング・オフが認められる場合でなければ,契約を解除して返本することはできません。
通信添削講座の受講契約のクーリング・オフに関しては,特定商取引法という法律があります。しかし,この法律によってクーリング・オフが可能となるには,ご質問の受講契約が同法の定める取引類型(取引の形態)に該当する場合である必要があります。
同法は,(1)訪問販売,(2)電話勧誘販売,(3)特定継続的役務提供,(4)連鎖販売取引(いわゆるマルチ商法),(5)業務提供誘引販売取引(いわゆる内職・モニター商法)に該当する場合に限り,クーリング・オフを認めています。ご質問の事例は,(1)~(3)の取引に該当する可能性があります。
「訪問販売」とは,店舗や事務所,営業所ではない場所で受講契約の申込みを受けたり,そこで契約を締結して受講する場合です。
「電話勧誘販売」とは,事業者が電話で受講を勧誘し,その電話の中で講座の申込みや契約締結をしたり,あるいは電話を終えた後,電話による勧誘の影響が残っている状況で,郵便や電話,ファックス,メール,ネット上の申込み,電報や口座への振込み(これらの方法は「郵便等」と定義されている)によって申込みをしたり契約を締結する場合を意味します。
また,「特定継続的役務提供」は,契約の締結場所や方法は問わず,対象となる役務が特定商取引法施行令(政令)で指定する役務に該当する必要があります。通信添削講座の場合では,その講座の内容が幼稚園と大学以外の学校教育法第1条の学校の入学試験対策またはこれら学校の授業の補習,あるいは語学の教授の講座であればクーリング・オフの対象となります。
したがって,通信添削講座の受講契約を訪問販売や電話勧誘販売で締結したり,締結した契約内容が上記の政令指定役務に該当する場合(特定継続的役務提供の場合)には,契約の申込書面または契約書面を受け取った日から数えて8日以内であれば,書面で通知することでクーリング・オフができます。
[3]通信販売とクーリング・オフ
特定商取引法では,契約の申込みを郵便等により行う取引は「通信販売」と定義され,通信販売で通信添削講座の受講契約の申込みが行われた場合は,同法が適用されます。しかし,同法は通信販売にはクーリング・オフは認めておらず,通信販売業者が広告中に返品に関する特約を表示していない場合に限り(表示があればその表示の条件に従う),商品または権利を受け取った日から数えて8日以内に契約を解除する権利(法定返品権)のみを認めています。
しかし,法定返品権は商品と権利の契約に限られ,通信添削講座の受講のような役務の提供契約には認められていません。したがって,ご質問のケースも通信販売で通信添削講座の申込みをした場合であってかつ,事業者が返品について広告中に何も表示していないとしても,通信添削講座の受講契約の解除は認められません。
なお,教材の売買契約と通信添削講座の受講契約がそれぞれ別々の契約と考えられる場合は,広告中に返品に関する表示がなければ,教材の売買契約については教材を返品することで契約を解除できる場合もありえますが,いずれにしても受講契約を解除することはできないと考えられます。

【参考】

▼ 齋藤雅弘, 他:特定商取引法ハンドブック. 第5版. 日本評論社, 2014.
▼ 後藤巻則, 他:条解 消費者三法. 弘文堂, 2015.

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