株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

CLOSE

青色光・レーザーを使用した歯科治療の概要と機序

No.4764 (2015年08月15日発行) P.65

山本一世 (大阪歯科大学歯学部歯学科主任教授)

登録日: 2015-08-15

最終更新日: 2016-10-18

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

【Q】

コンポジットレジンを固める際に青色の光を当てる治療と,歯の悪いところをレーザーで焼く治療を受けました。レーザー治療は,水分含有量に応じて異常な部分のみを焼くとの説明を受けました。歯科における光線などを利用した治療にはどのようなものがあるのでしょうか。コンポジットレジンの硬化やレーザーでの蒸散メカニズムについてもご教示下さい。 (兵庫県 K)

【A】

現在,歯科における光線の利用は,質問者が受けられたような,修復材料の硬化のための光線照射や,レーザー機器による治療があります。
修復材料に対する光線照射は,ご指摘のような直接法(詰め物を詰める治療)としてコンポジットレジン修復における接着剤や充填材料の重合硬化に使用される頻度が最も高くなっています。それ以外には間接法(型をとる治療)によって製作された歯冠修復物の装着用セメントの光硬化や,歯のホワイトニングにおける漂白剤の活性化などに応用されています。
光硬化材料に配合されている光増感剤カンファーキノンの光吸収ピークは470nm付近の波長(青色光)なので,歯科治療に使用される光線は肉眼で青っぽく見える可視光線となっています。この前後の波長の光線照射によってフリーラジカル(遊離基:ほかの原子や分子と反応して相手から電子を奪い取る)が発生し,これによって材料が付加重合して硬化します。光重合型コンポジットレジンは,以前の自家重合型と比較して操作性に優れ,また色調が豊富な上に修復後の変色が少ないなど多くの利点があります。現在では修復用のコンポジットレジンはほとんど光重合型となっています。
また歯科用レーザー機器としてはNd:YAG(ネオジウム:ヤグ)およびEr:YAG(エルビウム:ヤグ)といった固体レーザー,CO2 などの気体レーザー,半導体レーザーが実用化されています。口腔軟組織に対しては,口内炎の治療や良性腫瘍の切除,歯周病治療における歯周ポケットの掻把や滅菌,歯肉メラニン色素沈着の除去などに応用されています。さらに,歯の硬組織に対しては,う蝕の診断や歯質の耐酸性付与,象牙質知覚過敏症の鈍麻,歯石除去,また質問者が受けられたような,う蝕治療における病的歯質の除去などに用いられています。
歯科用レーザーによるう蝕罹患歯質除去の作用機序としては,熱作用による水分の蒸散ならびに光衝撃波作用によって,歯質を構成しているアパタイトが蒸散するためと考えられています。そのため,歯質の光吸収スペクトルのピーク値に近い波長を有するEr:YAGレーザー(波長2.94μm)が最も有効とされています。
このEr:YAGレーザーによるう蝕罹患歯質の除去は,従来のドリルによる回転切削と比較して不快な音や振動が少ないこと,適切な照射条件を用いることにより罹患歯質を選択的に除去できることなどが大きな特長です。現在では保険収載もされていますが,歯質の蒸散に長時間を要することなどが問題点であり,回転切削に完全に取って代わるには至っていないのが現状です。

関連記事・論文

関連書籍

関連物件情報

もっと見る

page top