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看取り・死亡確認の具体的手順

No.4741 (2015年03月07日発行) P.58

折茂賢一郎 (全国老人保健施設協会副会長、西吾妻福祉病院名誉病院長、六合温泉医療センター長)

登録日: 2015-03-07

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

勤務する老健施設で看取りを検討している。老健施設では,看護師が回診中に既に臨終を迎えていることがある。そのような利用者を発見したときを起点として,担当医は何時間以内に駆けつけるべきか。 (福岡県 T)

【A】

全国老人保健施設協会(以下,全老健)の調査(文献1)では,老健施設で看取りを実施した利用者の家族の約9割が満足していると答えている。一方,不満と答えた利用者の家族のコメントを分析すると「臨終の際に立ち会えなかったこと」が原因の1番目であり,次に「放っておかれたと思う」,「誰もしらないうちに」のような,利用者の家族に対する事前の説明不足などを原因とするものが多く,説明の重要性が垣間みられる結果となっている。
このように,老健施設での看取りを実施する上で最大のポイントは,利用者本人や利用者の家族へのインフォームド・コンセントであり,これがすべてと言っても過言ではない。
あらかじめ施設内において,様々な事態を想定した看取りへの対応を定めておくことが重要である。また利用者の家族には,その利用者の病状などを逐次詳細に説明し,前述の看取りに対する施設の対応なども含めて事前に理解を得ておくことが非常に重要である。
医師も人間であり,不眠不休で働くわけにはいかず,ある程度は割り切り,臨機応変に無理のない範囲で対応せざるをえない。万が一,夜中に亡くなることがあった場合でも,24時間以内(翌朝が一番望ましい)に出勤し,死亡判定を行えば問題はないとされている。
この死亡判定については,医師も誤解している場合が多い。医師法第20条の解釈は「患者死亡後24時間を超える場合は,死亡診断書は書けず,死体検案書を交付しなければならない」とする主旨ではない。平成24年8月31日付け医政医発0831第1号で,医師法第20条のただし書として「診療中の患者が診察後24時間以内に関連した傷病で死亡した場合には,改めて診察をすることなく死亡診断書を交付し得ることを認めるものである。このため,医師が死亡の際に立ち会っておらず,生前の診察後24時間を経過した場合であっても,死亡後改めて診察を行い,生前に診療していた傷病に関連する死亡であると判定できる場合には,死亡診断書を交付することができる」と通知されている。つまり,診療中の患者(=入所者)で死因が当該診療に係る傷病であれば,通常,死後24時間を超えても警察署に届け出たり,死体検案書を発行する必要はないということである。
とはいえ,法律上問題ないとしてもご遺族の心情を考えれば,死後丸1日以上,ご遺体を放っておかれたら倫理上問題になる。そこで,特に看取りを実施する独立型の老健施設で管理医師が1人しかいない場合は,職員や利用者の家族にあらかじめ「夜中に亡くなった場合は,すぐに駆けつけるのではなく,翌朝になってからの診断となってもよい」という了解を得ておくことが大切である。また,死期が近づいたと判断した場合は,「看取りに向けたケアプラン」の策定を行い,利用者の家族に説明した上で「看取り加算」の算定もできることになっている。この場合には,利用者・家族にしっかりと説明もできているはずである。問題となるのは,予期せぬ突然の心肺停止状態の発見のときになる。
質問の「発見して何時間以内に駆けつけるべきか」については,特に何時間ということではなく,その施設の実情に合わせ,医師が駆けつける時間も含め,その施設における看取りの対応方針(医師の不在時の対応も含め)を定め,それをあらかじめ懇切丁寧にご家族などに説明し,了解を得ることが重要である。
たとえ入所中であったとしても,不測の事態による急変(他人の意図せぬ悪意のある介入など)が考えられるような場合には,医師は即座に駆けつけ,ご遺体の保存に努めるとともに警察への通報が必要になることもあることを忘れてはならない。「看取り」は人生最後の最大のイベントである。本人・家族・職員すべてが納得のいくものにしていくことが肝要と思われる。

【文献】


1) 全国老人保健施設協会:介護老人保健施設の管理医師の有効活用による医療と介護の連携の促進に関する調査研究事業.
[http://www.roken.or.jp/wp/wp-content/uploads/2012/07/H26_kanri_ishi.pdf]

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