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弓部大動脈瘤に対するステントグラフト治療【double side branch deviceを用いたステントグラフト手術により,低侵襲かつ遠隔期成績が期待できる】

No.4801 (2016年04月30日発行) P.61

倉谷 徹 (大阪大学大学院医学系研究科 低侵襲循環器医療学教授)

登録日: 2016-04-30

最終更新日: 2016-10-25

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【Q】

弓部大動脈瘤に対するステントグラフト治療では,debranching thoracic endovascular aneurysm repair(debranching TEVAR)法,chimney graft法,開窓法などがありますが,脳梗塞などの合併症が少なからず発生し,動脈瘤径の縮小も得られにくい傾向にあります。double side branch device法を含めて弓部大動脈瘤に対するステントグラフト治療の適応と将来の展望について,大阪大学・倉谷 徹先生のご教示をお願いします。
【質問者】
善甫宣哉:山口県立総合医療センター外科診療部長

【A】

弓部大動脈疾患に対するステントグラフト治療の導入以来,種々の術式が考案されてきましたが,現状でのステントグラフトを用いた弓部大動脈手術は,過渡期と言わざるをえません。debranching TEVARは,いまだ外科手術を多く用いた術式で,低侵襲とは言えません。さらにchimney graft法は上行もしくは弓部大動脈にステントグラフトを2~3本挿入する,根治術式としては無謀と言わざるをえない術式です。また開窓法(fenestrated graftを用いたTEVAR)は,治験による脳梗塞発生率が高く,全世界的に遠隔期の成績がその開窓ゆえに不明瞭と言われています。
そこでステントグラフトのみで完遂でき,さらに低侵襲かつ遠隔期成績が期待できるdouble side branch deviceを用いたステントグラフト手術は,弓部大動脈疾患に対する低侵襲手術として完成形に近づいたと考えられます。この術式は,メインデバイスに頸部用小口径ステントグラフトを結合することにより血管内で完成させるものです。このシステムは中枢および末梢血管へのデバイスの圧着,およびstent-in-stentのみであり,根本的なステントグラフト手術と同様の成績が十分に望めると思われます。私たちはBolton社製を用いていますが,多くの企業がこの分野に参入しようとしており,ステントグラフト分野で唯一活気のある開発が行われています。今後,頸部分枝に対する小口径ステントグラフトのさらなる開発,塞栓症による脳梗塞をいかに予防するかなど,解決すべき項目は多いと思われますが,未来はさらに明るくなったと思われます。
私にとって,branch deviceによる弓部大動脈疾患に対する完全なendoによる治療の完成は,長年描いていた夢の実現(dream come true!)であり,次のA型解離低侵襲治療への第一歩であると考えています。

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