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解離性大動脈瘤症例に対するステントグラフト治療の適応

No.4779 (2015年11月28日発行) P.59

宮本伸二 (大分大学医学部附属病院心臓血管外科教授)

登録日: 2015-11-28

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

腹部および胸部大動脈瘤に対する外科的治療も大きく変貌し,最近では解離性大動脈瘤症例にもステントグラフト(stent graft:SG)治療が施されるようになってきています。以下について,大分大学・宮本伸二先生のご教示をお願いします。
(1) 解離性大動脈瘤症例に対するSG治療の適応について。
(2) 今後,大動脈瘤疾患の何割がSG治療の適応となるでしょうか。
【質問者】
尾崎重之:東邦大学医療センター大橋病院心臓血管外科教授

【A】

筆者自身,自作SGを導入する際のターゲットは合併症のある急性B型解離でした。ご質問の解離性大動脈瘤とは,急性解離と瘤化した慢性解離の両方を意味していると推察して回答いたします。
[1]急性大動脈解離:A型解離は特殊な例を除き適応外です。ランディングが得られないこと,上行置換,弓部置換が成績の良い安定した術式であるからです。
一方,合併症のあるB型解離は外科治療の入院死亡が30%近くに及ぶため,SG治療が第一選択となってきました。特に臓器灌流異常(malperfusion)は,SGによりエントリーを閉鎖するだけで劇的(簡単,確実)に改善されます。破裂も多くは治療可能ですが,リエントリーが閉鎖されていない場合は再破裂の危険性があります。真性瘤でも同じですが,破裂している場合は瘤(偽腔)内への流入血液を完全に絶ち血栓化を得る必要があるからです。
合併症のないB型急性解離に対しても,偽腔開存型であれば瘤化予防としての適応はあります。しかし,偽腔開存全例にSGを行うというのは間違いだと思います。SGといえども,手技施行時の合併症があるからです。瘤化ハイリスク因子である最大動脈径が40mmに達している場合にのみ行うべきでしょう。
慢性大動脈解離:上記のように急性期から経過をみている場合は,確実なremodelingを得るために40mmを超えた時点でSGを入れてよいと思います。既に瘤化している解離は,通常の真性瘤と同じく50mmを超えたものが治療の適応です。ただし,単純なulcerlike projection(ULP)の拡大であれば嚢状瘤と同様に確実に治りますが,エントリー,リエントリーが存在し,エントリーしかカバーできない場合は,多くの症例で破裂の時期こそ遅らせることはできますが,拡大を防ぐことはできません。ことに腹腔,上腸間膜,腎動脈のうち複数が偽腔灌流となっている場合は,根治は不可能です。しかし,80歳を超える超高齢者ではそれでもよいと思います。広い目でみると,医学はすべて延命治療ですから。
[2]現在,SGを日常的に導入している施設ではおよそ腹部大動脈瘤の1/2,胸部大動脈瘤の1/3がSGで治療されています。今後,(1)デバイスの進化による解剖学的適応の拡大とそれによる根治率の上昇,(2)団塊の世代が70歳代に突入することで,大動脈疾患総数の増加だけでなくハイリスク患者の割合が増加するという患者背景による適応症例の増大,という2つの要因により,確実にSG治療割合は増加します。5年以内には間違いなく腹部で6割,胸部で5割がSGの適応となるでしょう。手技を工夫し,適応を拡大してSGを行っている筆者らの施設では,既にその割合に達しています。

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