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自己心膜を使用した大動脈弁再建術

No.4769 (2015年09月19日発行) P.63

尾?重之 (東邦大学医療センター大橋病院心臓血管外科 教授)

登録日: 2015-09-19

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

東邦大学医療センター大橋病院・尾埼重之先生が開発された自己心膜を使用した大動脈弁再建(形成)術は,わが国の多くの施設をはじめ,世界各国でも行われる標準手術術式となりつつあると思います。以下について尾埼先生のご教示をお願いします。
(1) 現在までの長期遠隔成績はどのようになっていますか。
(2) 手術適応はどのようにお考えですか。
【質問者】
宮地 鑑:北里大学医学部心臓血管外科学主任教授

【A】

(1)長期遠隔成績
「自己心膜を使用した大動脈弁再建術」は2007年4月から開始されました。現在,8年以上が経過し,当院では800例以上の患者さんが,本術式を希望し,手術を受けています。再手術回避率は約98%と良好で,現時点では人工弁の成績を凌駕しています。
自己組織を使用するため血栓ができにくく,術直後より抗凝固薬であるワルファリンを服用することはありません。人工弁置換術後に問題となる血栓,塞栓,出血などの合併症を回避できる多くのメリットがあります。
(2)手術適応
本術式は自己心膜を弁輪に直接縫いつけていくため,人工弁と異なり,弁を支えるステントはありません。大動脈弁は収縮期に大動脈弁輪が拡張することがトリガーとなり開口し,拡張期には弁輪が収縮することがトリガーとなり,閉鎖します。本術式はこの弁輪の生理的な動きを温存することができるため,高齢女性に多い狭小大動脈弁輪症例でも大動脈弁前後での圧較差を生じません。一方で人工弁はステントがあるため弁輪の生理的な動きを温存することができず,特に狭小大動脈弁輪症例では圧較差を残すこととなります。
この利点を活かすため,当初,高齢者に本術式の適応があると考えました。実際に80歳以上の高齢者の再手術回避率は100%と非常に良好です。しかし,若年の患者さんの中で,人工弁置換術に抵抗があることと,仕事に支障が出るとのことでワルファリンなどの抗凝固薬の服用を希望しない患者さんが,本術式を希望するようになり,60歳未満の患者さんの再手術回避率も99%と良好であることから,現在,人工弁置換術の適応であるすべての患者さんに本術式は適応があると考えております。

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