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僧帽弁手術後の三尖弁閉鎖不全症

No.4754 (2015年06月06日発行) P.55

泉谷裕則 (愛媛大学心臓血管・呼吸器外科学教授)

登録日: 2015-06-06

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

僧帽弁手術後の三尖弁逆流が高度の場合,右心不全の評価に困っています。患者さんが呼吸不全を訴えることが少なく,下肢浮腫が利尿薬などでコントロールできる場合には,手術介入せず経過をみるだけでよいのでしょうか。それとも肝・腎機能への影響を考慮して早期に介入すべきでしょうか。
このようなことに悩まされないために,僧帽弁手術時に,併存する三尖弁逆流に対しては積極的に人工弁輪を縫着するようにしています(僧帽弁手術後は,再手術ということもあって適応時期についてのハードルが高くなります。また,手術時期を逸すると再手術後に難治性の右心不全に悩まされることがあります)。ただ,人工弁輪の縫着のみで逆流が制御できるかどうかも難しいところです。
患者さんは内科で経過をみていることが多いので,内科医にどのような検査を行って,どの時点で外科に紹介して頂けるようアドバイスしたらよいでしょうか。愛媛大学・泉谷裕則先生のご教示をお願いします。
【質問者】
小宮達彦:倉敷中央病院心臓血管外科主任部長

【A】

三尖弁閉鎖不全症の多くは弁輪拡大やそれに伴う弁尖の接合不全により生じ,僧帽弁疾患に合併することが多く,機能的三尖弁閉鎖不全症または二次性三尖弁閉鎖不全症と呼ばれています。そのため僧帽弁手術後に三尖弁閉鎖不全症が改善することが知られています。
中等度以下の三尖弁逆流については,僧帽弁手術時に放置した場合に減少あるいは消失するという報告があります。しかし,僧帽弁手術の際に放置された軽度の三尖弁逆流が術後に増悪したり,あるいは術前に三尖弁逆流がない症例においても術後に新たに逆流が生じたりすることも報告されています。
日本循環器学会学術委員会合同研究班のガイドラインでは,僧帽弁手術時の中等度以上の三尖弁逆流については積極的な三尖弁輪形成術を勧めています。軽度三尖弁逆流についても,弁輪拡大や肺高血圧を伴う場合は適応と考えます。弁膜症再手術の成績は良好でないことから,僧帽弁手術時の三尖弁輪形成術を積極的に行う傾向です。
ご質問のように,術後の三尖弁逆流残存や再発のために右心不全に難渋することがあります。三尖弁逆流残存や再発の危険因子として右室ペースメーカーリードの存在,高齢,心房細動,肺高血圧症,女性などが挙げられます。多くは肺高血圧の残存や左心系の病変の悪化による三尖弁逆流の増悪とそれに伴う右心不全が関与しています。ADLが低下したり,中には再手術になる症例もあります。
術前の三尖弁tetheringの程度が三尖弁逆流残存と再発に関与しているという報告があります。tetheringの強い症例では弁尖のパッチ拡大を追加し,人工弁輪だけの縫縮では対応できない症例への工夫が行われています。
重症三尖弁逆流は,患者予後に関して独立危険因子であることが知られています。そのため内科的治療抵抗性,臓器障害が進行する症例は外科治療を考慮する必要があります。過去の統計から再手術の危険性が高いと考えられていますが,手術時期が遅れたために危険性が高くなっていたことも事実です。心機能低下例についても三尖弁手術は心拍動下で行うことができるため,一般に考えられているほど再手術の危険性は高くないと考えます。
下腿浮腫のコントロールのために利尿薬の必要量が増加する患者さん,ADLが徐々に低下する患者さん,臓器障害の進行する患者さん,特に肝うっ血と思われる血液検査データの異常値がある場合,三尖弁逆流の制御により症状,ADLや予後の改善が見込まれる症例については早期の外科治療が望まれます。

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