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薬物依存症治療、“箱”だけでは受け皿にならない [お茶の水だより]

No.4751 (2015年05月16日発行) P.11

登録日: 2015-05-16

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▼厚生労働科学研究班がこのほどまとめた報告書によると、昨年9~10月に医療機関で薬物依存症などの治療を受けた患者が過去1年間に使用した薬物のうち、危険ドラッグが34.8%と過去最多の使用率を記録したという。ただし、埼玉県立精神医療センター副病院長の成瀬暢也氏によると、取り締まり対象の「指定薬物」への指定手続きの迅速化や法規制強化が奏功し、危険ドラッグによる新規患者は激減、覚醒剤等による患者が再び増加に転じているという。
▼いくら法律や条例で販売や所持に対する規制を強めても、世に薬物が出回る限り依存症患者は尽きない。依存症に陥れば自らの意思だけで薬物を断つことは難しく、社会復帰には医療の手助けが不可欠だ。
▼薬物依存症治療を巡っては、近く変化が予想される。その理由は、来年施行される「刑の一部執行猶予制度」。同制度は、薬物犯罪等で服役する者の刑期の一部の執行を猶予して保護観察とし、その期間を治療に充てられるようにするもの。覚醒剤に限れば使用者の再犯率は60%以上。保護観察中に依存症を治療することで出所後の再発防止が期待される。
▼法務省はこうした依存症患者の回復支援を行う保護観察施設の整備を進める方針だ。厚労省も、保護観察施設と医療機関が依存症治療でスムーズに連携できるようガイドラインを作成する。
▼制度の構築が進む一方で、懸念されるのは薬物依存症治療を提供する医療機関の少なさだ。現在「依存症治療」を看板に掲げていても薬物は対象外としている医療機関もある。厚労省は依存症治療の拠点に指定する病院を増やす方針を示しているが、治療施設という“箱”を用意するだけで効果的な治療を提供できる拠点が増えるわけではない。
▼薬物依存症専門医は全国に10名程度。前出の成瀬氏は、薬物依存症治療は医療者からも「怖い」「特殊」というイメージで敬遠されていると指摘する。しかし、実際の患者の大半は暴力団員などではなく、人に嫌われたり見捨てられたりすることを恐れ、薬物で仮初めの安息を得ている“引きこもり系”。そうした患者の不安に耳を傾けることが治療であり、「誰でも実践できる」と成瀬氏は強調する。
▼薬物依存症治療を充実させるには、診療報酬体系の構築なども検討すべきではあるが、まず医療界が依存症治療を理解して前向きになる必要があろう。そして、薬物に一度手を出した患者の社会復帰を支える受け皿づくりを目指すべきではないか。

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