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選手の障害予防に医師の介入サポートを [お茶の水だより]

No.4749 (2015年05月02日発行) P.11

登録日: 2015-05-02

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▼イチロー選手(41)が日米通算の得点を1968点として、王貞治氏が持つ日本プロ野球の通算得点記録を更新した。「50歳まで現役でやりたい」と言うイチローの大きな強みは故障の少なさだ。故障を防ぐため、試合前の入念なストレッチを欠かさないことは有名だが、その先駆者は元阪神タイガースの真弓明信氏だと指摘する人がいる。タイガースのチームドクターを長く務めた越智隆弘氏(大阪警察病院長)だ。「長く現役でいたい」という真弓に越智氏は、2軍が練習を始める時間には球場に入り、ウォームアップとクールダウンを十分行うよう勧めた。「実際長く現役でいたでしょう。本当に丁寧に自分の状態をコントロールしていた原型が、真弓だと思います」
▼越智氏はその延長で、成長期の投球障害予防にも取り組んだ。甲子園で活躍しながらプロ入団時には既に肩や肘を壊し、1、2年で辞めてしまう投手が少なくなかったからだ。越智氏は高野連に掛け合い、全国大会に参加する投手全員に検査を実施。約2割に障害がある実態を明らかにするとともに、全国を回って高校野球、少年野球の監督らに予防対策の重要性を訴えた。1998年、延長17回を投げ抜いた松坂大輔投手を翌日の準決勝に先発させなかった横浜高校・渡辺元智監督の決断は、越智氏の地道な努力が、当時の指導者らの意識を変えた結果である。
▼現在の日本のスポーツ界はどうか。フィギュアスケートの羽生結弦選手が本番前の練習中、中国人選手と激突し頭部を強打しながら強行出場したのは記憶に新しい。診察したのは米国チームの医師ら。しかしテレビ放送を見て羽生が脳震盪を起こしていた可能性を指摘する専門家もいる。9割以上が意識を失わず、外見では判断がつかない脳震盪。重い障害が残ったり、頭蓋内の出血で死に至ることもある。
▼日本脳神経外科学会と日本脳神経外傷学会は2013年、「脳振盪を起こしたら原則として直ちに競技・練習への参加を停止」するよう提言しているが、現場の指導者や長くチーム・選手に関わってきた医師もまた当事者であり適切な判断ができない場合もある。当事者や大会運営側からも距離を置く第三者機関が医学的立場から判断する仕組みが考えられるべきだろう。指導者への啓発活動と意識改革も重要だ。
▼怪我や障害を予防し、選手が長く現役を続け、引退後も健康に過ごすため、医師が介入サポートできる部分は大きい。メディアや各種団体を巻き込んだ、競技種目横断のルール・体制づくりが期待される。

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