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「健康格差」にどう対処するのか [お茶の水だより]

No.4748 (2015年04月25日発行) P.9

登録日: 2015-04-25

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▼所得や資産に関する格差の問題に世界的な関心が高まるなか、健康格差への対策を求める声も上がっている。世界保健機関(WHO)の健康の社会的決定要因に関する委員会は2008年、「一世代のうちに格差をなくそう」と呼びかける報告書を出版。09年にはWHOの総会が加盟国に対策の推進を勧告した。
▼「教育水準で死亡率を比較すると大卒が最も低い」(韓国調査)、「労働者のうち終身雇用者より有期雇用者で精神疾患有症率が高い」(スペイン調査)、「DQスコア(発達指数)が低い子どもに栄養、心理社会的刺激を与えるとスコアが改善」(ジャマイカ調査)。WHOの報告書では、こうしたデータを示し、すべての国で健康と病は社会階層の勾配に従い、社会経済的地位が低いほど健康状態も悪いと指摘した。
▼格差の要因として報告書は、「権力、資金、物資、サービスの不平等な分配や、その結果としての生活環境と豊かな人生を送れるチャンスの不公平によって生じる」と分析。健康格差は自然現象ではなく、粗末な社会政策や事業、不公正な経済秩序と劣悪な政治が招くと指摘し、格差是正には保健医療部門だけでなく、政府全体、市民社会や企業、国際機関を巻き込んだ行動が必要だと強調した。
▼日本でも対策が徐々に進んでいる。「健康日本21(第二次)」(2013~22年)は健康格差の縮小を初めて目標に据えた。公益財団法人医療科学研究所の委員会(近藤克則委員長)は先月『健康格差対策の7原則』を提言。(1)課題の共有、(2)配慮ある普遍的対策、(3)ライフコース対策、(4)ゴール設定と根拠に基づくマネジメント、(5)国・自治体・コミュニティによる重層的対策、(6)縦割りを超えた連携、(7)コミュニティづくり─を挙げ、関係者に議論を促している。
▼実際に格差是正に取り組む自治体も現れた。全国平均より平均寿命が2年短い東京都足立区は、糖尿病が区民の健康の阻害要因と捉え、「足立区に住めば自然と健康になる」環境づくりを進める。例えば、野菜の消費に協力する飲食店を認定する「ベジタベライフ事業」を開始し、加盟店を増やしている。
▼日本では子どもの貧困率が16.3%(2012年)と過去最悪の水準にあり、非正規雇用も増加している。健康の社会的決定要因に関するエビデンスを踏まえれば、こうした格差は健康格差にもつながっており、その拡大が懸念される。この10年間で研究が進んだ健康格差の問題を社会全体が共有し、対策に知恵を出し合うことが今後一層求められている。

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