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先制医療の花を咲かせよう [お茶の水だより]

No.4747 (2015年04月18日発行) P.13

登録日: 2015-04-18

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▼第29回日本医学会総会が「医学と医療の革新を目指して―健康社会を共に生きるきずなの構築」をテーマに春の京都で開催された。前回2011年の総会は直前に東日本大震災が発生、その影響で大幅に縮小されたことから通常開催は8年ぶりとなった。
▼高齢化に伴う疾病構造の変化や、複数の臨床研究で指摘された不正などにより、この8年の間に医学や医療を取り巻く環境は変化した。それは、2007年総会の会頭講演のテーマが「病に挑む医学の未来」だったのに対し、今回井村裕夫会頭は「日本の未来のために、いま医学・医療は何をなすべきか」と題して講演したことからも窺える。井村会頭はプログラム策定において、医学の専門分化が進む中で、横断的なテーマを取り上げることを念頭に置いたという。
▼中でも注目されるのは、会頭講演でも強調された「先制医療」だ。先制医療はこれまでの「集団の予防」が主である「予防医学」とは異なり、「個の予防」に力点を置く。遺伝素因を調べた上で、ハイリスク者を見つけ、バイオマーカーなどで発症前診断を行い、対象を限定して発症前介入などを行う。患者のQOL向上を目指す医療で、医療費抑制効果も期待される。急速に高齢化が進む社会では、遺伝素因と環境因子の相互作用が考えられ、加齢とも関係する「非感染性疾患」への対応として先制医療が重要になる。
▼先制医療の取り組みを紹介するシンポジウムでは、効果が期待される非感染性疾患として、「アルツハイマー病」「糖尿病」「心疾患」「骨粗鬆症」が取り上げられた。会場は立ち見も出るほど盛況で、講演ではバイオマーカーの確立に向け大規模データ解析を基にしたコホート研究推進の重要性が強調された。
▼しかし、先行きには不安も残る。このシンポジウムでは4人の研究者が講演したが、そのうち2人はデータを巡る不正が疑われた大規模臨床研究の代表者で、この問題は一般メディアでも大きく報道された。
先制医療は超高齢社会を迎える日本が取り組まなければいけない重要分野だが、残念ながら医師や科学者の扱うデータに対し、国民の信頼は高くない。医療界全体で、先制医療のカギとなるデータの信頼性をどう高めるかが今後の課題の1つといえる。
▼開会式では京都市出身の世界的指揮者、佐渡裕氏によるオーケストラが東日本大震災の復興支援ソング「花は咲く」を演奏し、感動を呼んだ。日本に先制医療の「花」を咲かすことができれば、健康長寿社会の実現に向けたブレークスルーとなるだろう。

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