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臨床研究不正と医療保険財政 [お茶の水だより]

No.4693 (2014年04月05日発行) P.15

登録日: 2014-04-05

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▼バルサルタン(商品名=ディオバン)を巡る論文不正問題の事実解明を進めていた厚労省の検討委員会が最終報告書をまとめた。この問題では、臨床研究のデータが人為的に操作されたことが判明。不正論文を利用した広告が大々的に展開され、「高血圧治療ガイドライン」にも引用された結果、「非ARB治療群に比べて心血管合併症を39~45%と大幅に抑制する」という事実とは異なる結果が医療現場に広く周知され、ディオバンの年間売り上げが1000億円を超えるほど患者に処方される事態につながった。
▼こうした結果について報告書は「国民全般に不安を引き起こし、臨床研究の信頼を損ねる事態を招いた」と分析。信頼回復のためには、臨床研究に関わるすべての関係者がこの事案と向き合い、愚直に再発防止策を実行し、有用な研究を積み重ねていくほかないと指摘した。また臨床現場に対しても「医薬品の有効性や安全性に関する情報を製薬企業からの提供だけに依存するのではなく、自らも情報収集に努め、得られた情報を科学的に見極めるための研鑽も必要」として、意識改革を求めた。
▼この問題では、事実とは異なる結果が医療現場に周知された結果、本来は必要のない高い薬代を患者が支払っていた、医療保険財政への影響もある。
▼消費税が8%に増税された4月1日、安倍晋三首相は、「年々伸びていく社会保障費の増加を賄い、国の信認を維持するため。全額、社会保障費に充てる」と述べ、国民に増税への理解を求めた。高齢化の進展により、社会保障費は毎年1兆円規模で膨らんでいる。これまでは税収で賄えず、負担を将来世代に先送りしていた。
▼社会保障制度を維持するために国民は増税という痛みを分かち合った。超高齢社会では生活習慣病患者がさらに増加し、心血管合併症を防ぐために、高血圧の薬物療法を受ける患者も増加するだろう。
▼報告書では、大々的な広告によって医師の処方行動が影響された可能性も指摘している。こうした事態を今後招かないためには、多くの医師が臨床研究に対し批判的に評価する目を持ち、今一度、1人1人の患者の病状に合った薬を吟味して処方することが必要だ。こうして限られた財源を有効に使うことが、ひいては、増税によって「暮らしが良くなった実感」を国民が得ることにも間接的に貢献できるのではないか。17年ぶりの消費税増税と同時期に公表された報告書を読み、そう考える。

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