症状,臨床所見,検査所見,画像検査などを参考にしながら,病勢を総合的に判断して治療薬を決定する。小児例で発症時のステロイド投与は,その後の腹部症状や紫斑病性腎炎の発症率低下に寄与しない。エンドキサンⓇ(シクロホスファミド水和物)は,重症の全身性血管炎症候群に対して一般的に用いられている薬剤である。このため,IgA血管炎においても,ステロイド治療に抵抗性の場合には使用される。成人例では稀に,薬剤性や腫瘍随伴例もあるため,それらの検索も必要となる。
軽症には,下肢の安静,弾性包帯,非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)を使用する。広範囲に及ぶ皮膚症状,血疱や皮膚潰瘍を形成する皮膚症状,繰り返し発症する皮膚症状に対しては,ステロイド軟膏,潰瘍治療薬などの外用療法を行いながら,レクチゾールⓇ(ジアフェニルスルホン)やコルヒチンを考慮する。また,重症紫斑の出現を早期に抑制するために,経口ステロイドの短期間投与を行う。しかし,永続的な投与や他の症状の予防を目的とした投与は勧められない。
関節症状には,アセトアミノフェンあるいはNSAIDsが使用される。NSAIDsを使用する場合には,腎障害や消化管出血を増悪する恐れがあるため,注意が必要である。
安静と補液などの対症療法で改善するが,重症例ではステロイドや免疫抑制薬を使用する。強い腹痛や下血などの消化器症状には,ステロイド(1mg/kg/日)の経口ないし静脈投与を行う。改善が認められれば,その後速やかに減量し,中止を試みる。血管炎に起因する出血・穿孔などの重篤な消化器症状には,ステロイドに加えエンドキサンⓇ(シクロホスファミド水和物)の投与を行う。
血尿のみ,あるいは蛋白尿が軽度~中等度であれば,経過観察あるいはレニン・アンジオテンシン系阻害薬,抗血小板薬を使用する。ネフローゼ症候群,高血圧,進行性の腎機能低下を認める症例や持続的蛋白尿〔高度蛋白尿(1.0g/gCr以上)が3カ月以上,中等度蛋白尿(0.5~1.0g/gCr)が6カ月以上,軽度蛋白尿(0.5g/gCr未満)が12カ月以上〕を認める場合,腎生検を施行し,組織学的重症度に応じて治療方針を決める。
国際小児腎臓病研究班(ISKDC)による紫斑病性腎炎の組織分類で,Ⅰ~Ⅲaの場合には前述のような抗血小板薬の投与を行い,半月体の割合が多いⅢb以上の場合には,経口ステロイド(1mg/kg/日)を投与する。また,IgA腎症に対しては,扁桃摘出術+ステロイドパルス療法の有用性が明らかとなっている。重症の腎炎(急速進行性糸球体腎炎,高度半月体形成性糸球体腎炎)に対しては,ステロイドパルス療法と併用で経口ステロイドを使用し,エンドキサンⓇを追加するが,易感染性をはじめとする様々な副作用に加え,妊娠可能年齢の女性には妊孕性に対する障害もあり,適切な使用が求められる。ステロイドに加えて,イムランⓇ(アザチオプリン),セルセプトⓇ(ミコフェノール酸モフェチル),ネオーラルⓇ(シクロスポリン)が使用されることもある。急激な腎機能低下を伴う重症例では,血漿交換療法を考慮してよい。
重症の腎炎は末期腎不全に移行する可能性があり,持続性の蛋白尿や血尿を伴う場合には専門医に相談する。激しい腹痛や下血を伴う消化管症状や,稀ではあるが,肺胞出血や脳出血などの致命的な合併症をきたすこともあり,専門医への緊急受診が必要である。
【文献】
1)日本循環器学会, 他:血管炎症候群の診療ガイドライン(2017年改訂版).
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2020/02/JCS2017_isobe_h.pdf
2)皮膚血管炎・血管障害診療ガイドライン策定委員会(日本皮膚科学会):皮膚血管炎・血管障害診療ガイドライン2023―IgA血管炎, クリオグロブリン血症性血管炎, 結節性多発動脈炎, リベド様血管症の治療の手引き2023.
https://www.dermatol.or.jp/uploads/uploads/files/guideline/hifukekkannenn2023.pdf
3)日本小児腎臓病学会, 編:小児IgA血管炎診療ガイドライン2023. 診断と治療社, 2023.
峯岸 薫(横浜市立大学附属病院血液・リウマチ・感染症内科診療講師)