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幅広い疾病リスクに対応できる腸内細菌叢の分析サービスを活用し新しい予防医療に取り組む[クリニックアップグレード計画 〈システム編〉(46)]

No.5206 (2024年02月03日発行) P.6

登録日: 2024-02-01

最終更新日: 2024-01-31

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人口が減少する一方、クリニック数は増加傾向にあり、特に都市部のクリニックにおいては集患の重要性が高まっている。他院との差別化を図り、“選ばれるクリニック”となるために一般の保険診療だけでなく自由診療を提供するクリニックが増えている。連載第46回は、腸内細菌叢の検査から疾病リスクを分析するサービスをはじめ、ニーズに応じた自由診療のメニューを提供することで、集患に成功しているクリニックの事例を紹介する。

東京都千代田区にあるお茶の水健康長寿クリニックはJR御茶ノ水駅から徒歩1分とアクセス抜群の好立地に位置する。同院は認知症・脳神経治療の専門クリニックで、院長の白澤卓二さんは千葉大医学部を卒業後、東京老人総合研究所(現東京都健康長寿医療センター)などでキャリアを重ね、順天堂大医学研究科加齢制御医学講座教授を務めるなど、30年以上に渡り認知症・アルツハイマー病治療の研究を行ってきたエキスパート。白澤さんは認知機能回復のための各種検査やオーダーメイドの神経再生治療を提供するクリニックとして2017年に同院を開業した。

「(認知症は)治らない進行性の疾患と言われていて、治るのは慢性硬膜下血腫などほんの一部です。なので、クリニックには全国から認知症の患者さんやご家族が少しでも症状を良くしたいと、強い覚悟を持って来院してくれます。そうした患者さんに最善の治療が行えるように、ほかの病院や保険診療とは違った検査・治療も提供できるようにしています」 こうした白澤さんの思いから、同院では一般診療の検査に加え、さまざまな画像解析診断や生活習慣の分析・指導を行っている。そのひとつが腸内細菌叢のバランスに着目した「SYMGRAM®(以下、シングラム)」だ。

シングラムはヘルステック・バイオベンチャーのシンバイオシス・ソリューションズが提供する腸内細菌叢検査・分析サービス。腸内細菌叢の検査から消化器系のみならず、循環器系・アレルギー系・神経系・精神系など30以上の幅広い疾病リスクについてスクリーニングすることができる。クリニックでは医師による問診を行い、患者が情報を登録、検査キットで採取した大便検体を同社へ送付するだけで検査・分析レポートが医療機関に届くため、クリニックの負担もほとんどないという(図1)。

精度の高い疾病リスクの分析が可能

白澤さんはシングラムの特徴である日本最大級の腸内細菌叢解析データベースを活用した精度の高い疾病リスクの分析を高く評価。プライマリ・ケア医や地域のかかりつけ医の自由診療のツールとして有用と語る。

「シンバイオシス・ソリューションズは身体の上から下まで色々な病気について腸内細菌との関連を研究しているので、シングラムでは『患者さんにどういう疾病リスクがあるか』というリスク判定がかなり正確に出ます。患者さんが病気を発症する前の予防医学のレベルでかなりいい評価基準になりますね。(シングラムの検査を受けて)がんのリスクが高く出た患者さんには、人間ドックの受診を勧奨しています。こうした検査は、特にまだ病気になっていない中年代の患者さんにニーズが高く、患者さんから希望されることもあります。プライマリ・ケア医にとっては今後の病気の発症リスクを教えることができるため、患者さんの満足度も上がり、集患の手助けになると思います」

患者さんと病気の予防や改善を考える

シングラムのもう1つの特徴は詳細な分析結果レポートだ(図2)。

レポートには腸内細菌叢から推定した疾病リスクの分析に加え、要注意菌や特定の代謝産物を産生する菌の分析(酪酸、乳酸、エクオールほか全14種類)、検査で検出された腸内細菌をはじめとするさまざまな情報が記載される。腸内細菌に関わる基礎知識や、分析結果に応じて、疾病の予防・改善のために摂取を推奨する食品も紹介されるため、患者さん自身でレポート結果を活用して食生活の見直しに役立てることもできる。

「当院には、先端的な診療を求める勉強熱心な患者さんも多く来院されるので、こうした詳細なレポートは非常に喜ばれます。分かりやすい形で結果が出ると、患者さんもすぐに検査の受診など行動に移されます。この分析結果を生活の中でどう活かして、予防や症状の改善にどうつなげていくことができるかを患者さんと一緒に考えるスタイルで診療を行っています」(白澤さん)


食事指導の新しい評価軸のひとつに

現在シンバイオシス・ソリューションズと共同で、食事が腸内細菌叢に与える影響や介入方法についての研究に取り組む白澤さんは、今後のシングラムの活用法についてこう語る。

「プライマリ・ケアに携わるドクターからすると、やはり対応できる疾病リスクの幅は広い方がいい。人間ドックのように全体のリスクを診てあげられるようになれば予防医療として多くの患者さんに適切な治療や指導が可能になります。今までの医療では遺伝要因からリスクへアプローチしていましたが、遺伝要因は変えることができない。でも、腸内細菌は変えることができる。そこが大きな違いだと思います。食事療法は、キーワードだけが健康法として独り歩きしてしまい、やりすぎてしまう患者さんもいる。シングラムは今後、正確な食事指導の新しい評価軸のひとつになっていけると思いますね」

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