生後10カ月の乳児が2階の窓から転落して亡くなるというとても悲しい事故がありました。寝かされていたベッドの側に窓があったようです。
保護者、そして親族の気持ちを思うといたたまれません。転落事故は今回のようにつかまり立ちして歩きはじめる1歳前後から起きやすくなります。窓を開ける頻度が高くなる春と秋にピークがあります。4歳以下の転落事故では、5歳以上の子どもと比べて頭部にケガを負う可能性が3.2倍高く、致命傷を負うこともあります。このようなニュースを見聞きするとなんとかしてこうした事故を防ぎたいという気持ちになります。
さて、この事故の少し前に「小学校3年生以下の子どもの放置禁止条例」が話題になりました。保護者の置かれた状況への理解もないまま小学生の留守番まで虐待とみなすという条例案が、「子育ての現実を無視しており、保護者をさらに追い詰める」との声が高まり廃案になりました。当然のことと思います。今回の条例案は、学童保育などの支援の拡充もないまま、保護者にのみ放置禁止義務が課せられる点、乳幼児や小学生で、年齢によって注意すべき点も違うのに、一律にルールを課した点が大きな問題だったと思います。
実際、乳幼児を1人にすることが事故につながる状況があるのは確かです。東京都商品等安全対策協議会は、乳幼児が寝ている間に父母が買い物に外出し、起きた子どもが親を探そうとベランダによじ登って墜落死した事例などをふまえ、転落防止策として「子どもだけを置いて外出しないこと」を挙げていますが、これに反対する人はいないと思います。
また、車内熱中症については、米国のデータですが、亡くなったケース171件のうち125件(73%)が車内に子どもだけ置き去りにしたことが原因という報告があります。残りの27%も、子どもが1人で駐車中の車内に入り込み、出られなくなって亡くなったケースでした。死亡例は全例4歳以下で、乳幼児が車内で1人になる状況は避けなくてはいけないことがわかります。
今回の事故をきっかけに、「1人にすると危ない子どもの年齢(=事故が起きやすい年齢)」について改めて整理できればと考えます。なお、1人にしていなくても、家の中で子どもから目が離れてしまうことはあります。そのような中で起こってしまう事故も残念ながらあります。つい「目を離すな」という注意喚起がなされがちですが、実際の子育てをしてみればわかる通り「24時間目を離さない」は不可能です。目は離れるものと考え、目が離れてもすぐに事故につながらない環境整備を考えることも重要です。
今回の転落事故で考えてみると、すぐに事故につながらない環境整備として、
①2階以上の窓には転落防止柵を設置
②窓にロックをつけ10cm以上開かないようにする(小さな子どもでも10cmの開口部を通過できないことがわかっているため)
③網戸は強度が弱く、乳幼児の転落防止にならないことを認識
④子どもが上る可能性のある家具を窓の近くやバルコニーに置かない
等が挙げられます。いずれも、保護者の目が離れてしまってもすぐには事故につながらない
事故が起こったタイミングは、多くの保護者がジブンゴトととらえやすくなるきっかけになるため、啓発情報も伝わりやすいと言えます。今回、「掛け声だけでなく、本当に効果のある対策」の議論のために医療者はどんな情報を提供できるか、引き続き考えていきたいと思いました。
坂本昌彦(佐久総合病院・佐久医療センター小児科医長)[乳幼児の事故][年齢による注意点][効果のある対策]