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日医、日本医学会がエビデンスを疑問視 - 「大規模調査で疾病発症予測できない」 [人間ドック健診の新基準範囲] 

No.4701 (2014年05月31日発行) P.6

登録日: 2014-05-31

最終更新日: 2016-11-16

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【概要】人間ドック学会と健保連が4月に発表した健診検査値の新たな基準範囲案について、日本医師会と日本医学会が「エビデンスが高いとは言えない」などとする見解を示した。


日本人間ドック学会と健康保険組合連合会が発表した『新たな健診の基本検査の基準範囲』案は、人間ドック受診者150万人のデータから抽出した、持病や喫煙・飲酒の習慣がない“超健康人”の検査値から、血圧、コレステロールなどの27の各検査項目で「正常」とされる値の範囲を示したもの。同学会は、基本検査で異常値のあった人を統計的に除外することで、『基準範囲』を厳格に設定したと強調し、すべての健診機関の共用基準に適用することにも期待を寄せている。
しかし、『基準範囲』の公表後、日本動脈硬化学会が、男性のLDLコレステロールの基準値が女性より高く設定されている点について、「動脈硬化疾患予防の観点から重大な齟齬が生じる」などと反論。日本高血圧学会も血圧値の範囲設定に異議を唱えるなど、関係学会から批判の声が相次いだ。

●事前協議なしの公表「拙速」
日医と日本医学会が21日の会見で発表した共同見解では、各学会が健診用の基準値として提示している検査値が、諸外国のデータを参考にしながら、久山町研究など日本人を対象にした長期コホート研究のデータに基づいて設定されていることを指摘。それに対し、『基準範囲』の調査方法は、「リスク評価のできない大規模横断調査であり、決して将来の疾病発症を予測できる前向き追跡コホート研究でない」として、「エビデンスが高いとは言えない」との見方を示している。
また、人間ドック学会が関係学会との事前協議を経ずに『基準範囲』を公表したことについても、「拙速と言わざるをえない」と問題視。エビデンスの判断を関係学会と十分に検討し、確定した上で公表すべきだったとしている。
会見に出席した高久史麿日本医学会会長は、エビデンスが不明瞭な値の1つとして収縮期血圧を挙げ、「147mmHgという上限値は、国際的には高血圧前症に分類され、正常とは言い難い。『基準範囲』は世界の常識と乖離している」と述べた。

●動脈硬化学会「健常者の潜在リスク強調を」
日本動脈硬化学会は21日、『基準範囲』に対する反論の追加説明を同学会HPに掲載した。
その中では、『基準範囲』の値は「現時点で健康とみなされた日本人の基準範囲にすぎない」と指摘。「むしろ、健康と思われる国民の中に、将来心筋梗塞で死亡するリスクの高い人が多く含まれていることを明らかにしたことが重要」として、健常者の潜在リスクを強調するよう提案している。

【記者の眼】『基準範囲』の上限値と疾患判別値は異なるものだが、多くの患者には区別がつかない。治療の中断など現場の混乱も招いており、人間ドック学会には、国民によりわかりやすい説明が求められる。(F)

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