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「先制医療」「ゲノム医療」の研究推進を - 井村裕夫氏、中村祐輔氏が提唱 [超高齢社会の臨床研究]

No.4698 (2014年05月10日発行) P.7

登録日: 2014-05-10

最終更新日: 2016-11-16

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【概要】超高齢社会を迎える日本では、どのような臨床研究を進めるべきなのか─。日本の医学研究を牽引してきた2人の研究者が今後の臨床研究の方向性を展望した。


講演はいずれも4月24日の日本消化器病学会総会で行われた。

●アルツハイマー病の先制医療に期待
来年、関西で開催される日本医学会総会の会頭を務める井村裕夫京大名誉教授は、超高齢社会とそれに伴う医療費の増大が大きな社会問題であるとし、その打開策の1つとして「先制医療」研究の重要性を指摘した。
先制医療とは、発症前にハイリスク者に介入する医療のこと。井村氏は、急速にライフスタイルが変化した集団では2型糖尿病が増加することを紹介し、その原因として、生後、栄養状態が十分でない環境で成育したヒトはその環境に適した発達プログラムが形成され、その後豊かな栄養状態に移行すると、発達プログラムとのミスマッチが生じて糖尿病を発症するとの最新の仮説を披露。
その上で、「従来のパブリックヘルスは40歳を過ぎてから早期発見・早期治療を目指す二次予防が中心だったが、発達プログラムの考えを用いると、ヘルスケアは胎児期から生涯を通じたものになる」と指摘。環境因子や遺伝的因子に基づいて疾患のハイリスク群を選別して介入する『先制医療』研究の推進を提唱し、特に期待されている疾患としてアルツハイマー病を挙げた。
さらに医師の診療スタイルの変化にも言及し、「医師はこれまでのように患者を待つのではなく、自ら外に出て行って、住民の健康を守ることが必要になる」と今後を展望した。

●ゲノム情報で薬剤の副作用軽減が可能
ヒトゲノム研究で知られる中村祐輔シカゴ大教授も高齢化と医療費の増大を問題視し、ゲノム情報を薬剤選択に活用することで、医療費を抑制することが可能であるとした。
中村氏は、製薬企業は利益率が高い新薬を売り込む一方で、国は医療費抑制を目的に後発医薬品を推進していることに懸念を示し、「(薬剤の選択基準は)患者に効果があるかどうかが前提」と強調。その上で、ゲノム情報を薬剤選択に活用する例として、抗凝固薬を挙げた。
具体的には、ワルファリンと新薬の薬価差は約20倍あるものの、中村氏も参加した国際研究グループは2009年に、患者の遺伝子多型の情報を用いてワルファリンの至適用量を推定して安全に投与するアルゴリズムを確立したことを紹介。「この方法を用いれば、患者のQOLを高めながら医療費も削減できる」と強調し、遺伝子情報を薬剤選択に用いるオーダーメイド医療について「高齢化で医療費が高騰している日本で求められる研究だ。ゲノム情報を医療に利用する体制の構築が急務」と訴えた。

【記者の眼】臨床研究といえば、不正の話題ばかりがメディアを賑わす昨今。両研究者が見通す今後の方向性は、超高齢社会における新たな潮流を示していて興味深い。講演では日本の臨床研究のインフラが脆弱であることも共通して指摘している。政府の支援も欠かせない。(N)

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