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伝染性膿痂疹(とびひ)[私の治療]

No.5171 (2023年06月03日発行) P.47

門野岳史 (聖マリアンナ医科大学皮膚科学講座主任教授)

登録日: 2023-06-02

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  • 伝染性膿痂疹(とびひ)は浅在性の皮膚感染症であり,黄色ブドウ球菌が主たる原因菌である水疱性膿痂疹と,連鎖球菌が主たる原因菌である痂皮性膿痂疹とにわかれる。水疱性膿痂疹では,黄色ブドウ球菌によって産生される表皮剝脱毒素がデスモグレイン1を溶かすことで,水疱びらんが出現する。水疱性膿痂疹が拡大し,黄色ブドウ球菌および表皮剝脱毒素が散布され全身症状を伴うものが,ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群(staphylococcal scalded skin syndrome:SSSS)である。

    ▶診断のポイント

    幼児に多く,早期は丘疹が少数みられる程度で通常の湿疹にみえるが,急速にびらんを伴って拡大する。成人にはほとんどみられない。皮膚所見で診断することがほとんどであるが,必要に応じてグラム染色や細菌培養を行い,起炎菌および抗菌薬に対する感受性を調べる。

    ▶私の治療方針・処方の組み立て方

    伝染性膿痂疹は,土台に湿疹の要素がどれくらいあるかに応じて処方を決めていく。軽症で範囲が限局している場合は,外用抗菌薬単独でも治療可能であるが,抗菌薬の内服が多くの症例で必要になる。

    水疱性膿痂疹の場合は,通常,黄色ブドウ球菌が起炎菌であるので,セファレキシンやセファクロルといった第一世代の経口セフェム系抗菌薬を主に用いる。また,β-ラクタマーゼ阻害薬配合剤(クラブラン酸カリウム・アモキシシリン水和物)も用いられる。可能であれば4〜5日後に再度来院してもらい,有効性を確認する。改善はしているものの水疱,びらんが残存している場合はもう数日抗菌薬内服を継続する。また,改善がみられない場合は市中感染型MRSAが原因菌であること,もしくは土台に湿疹病変があり,それが改善していないことなどが考えられる。原因菌として市中感染MRSAが疑われる場合はホスホマイシン,ファロペネム,ミノサイクリンなどが用いられるが,培養を行っている場合は,その結果に応じて薬剤を選択する。ただし,ミノサイクリンは歯牙黄染の副作用があるため,8歳未満では使用できない。

    痂皮性膿痂疹の場合は,通常,連鎖球菌が関与しているためで,β-ラクタマーゼ阻害薬配合剤などペニシリン系抗菌薬を主に用いる。また,水疱性か痂皮性か判別がつきにくいことも多いため,第一世代を中心とする経口セフェム系抗菌薬を用いることもある。

    外用薬をどうするかについては,瘙痒がなく,湿疹病変が目立たない場合は外用抗菌薬,湿疹を伴っている場合はステロイドの外用を行う。外用抗菌薬としては,主にフシジン酸ナトリウム軟膏やナジフロキサシン軟膏を用いる。ゲンタマイシン軟膏は効果が得られにくく,耐性菌が過半数とされる。びらんが多発し,滲出液が多い場合は亜鉛華軟膏や亜鉛華単軟膏を重層する。滲出液を吸うという観点からは亜鉛華軟膏のほうがよいが,亜鉛華単軟膏も広く用いられる。ステロイド外用を行うかどうかは異論のあるところであるが,土台にアトピー性皮膚炎があったり,瘙痒を伴ったりする場合は,抗菌薬の内服に加えてベタメタゾン吉草酸エステル軟膏など,ストロング程度のステロイド外用を加えている。

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