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【識者の眼】「いま、プラネタリーヘルス(地球の健康)が熱い」中村安秀

No.5147 (2022年12月17日発行) P.61

中村安秀 (公益社団法人日本WHO協会理事長)

登録日: 2022-12-03

最終更新日: 2022-12-02

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世界保健機関(WHO)は2022年の世界保健デーのテーマを「Our Planet,Our Health(わたしたちの地球、わたしたちの健康)」とした。その背景には、世界の保健医療のあり方を根本から揺るがした新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の存在がある。「かつて知られておらず、新しく認識された感染症」という意味で新興感染症(Emerging Infectious Disease)という名称が使われはじめたのは、わずか30年前の1990年代であった。新興感染症の半数以上は動物由来だと言われている。今後も第2、第3のCOVID-19が地球規模で大流行する可能性を考えると、私たちはあまりにもヒトだけを対象とした医療に専念しすぎたのかもしれない。今後は、家畜や野生動物、細菌やウイルス、植物といった地球上の生き物すべての健康に配慮した上で、ヒトの健康とウェルビーイングを考える視点が必要になろう。何よりも、地球環境、気候変動、生物多様性などが健全でなければ、生き物全体が生き延びることはできないのである。

COVID-19以降の保健医療のあり方を考えるときのキーワードのひとつは間違いなく「プラネタリーヘルス」(Planetary Health:地球の健康)である。プラネタリーヘルスは始まったばかりの新しい学際的な科学分野である。私たちが直面しているのは、感染症、気候変動、海洋酸性化、化学物質汚染といった直接的なリスクだけではなく、私たちがつくり出した社会そのものの中に地球の健康を妨げる脅威が存在している。

2021年10月にプラネタリーヘルスに関するサンパウロ宣言が発出された。先住民、芸術家、起業家、科学者などあらゆるコミュニティの声に耳を傾け、未来の世代の地球と人々の健康を守るために行動することが求められている。長崎大学を中心に、日本の科学者たちの手によって翻訳版が公開され、私も参加させて頂いたhttps://www.nagasaki-u.ac.jp/ja/pickup/file/ph/Sao%20Paulo%20Declaration%20FINAL_Japanese%20version.pdf)。

世界の多くの地域では、プラネタリーヘルスは決して新しい概念ではないのかもしれない。日本にも古くから鎮守の森、地、里山などのかたちで、人びとが暮らしを守りつつ、自然の恵みを次世代に伝えてきた伝統があった。地域ごとの文化や歴史や伝承に配慮した上で、プラネタリーヘルスの実践的な取組みが期待されている。災害大国である先進国であり、かつては水俣病や四日市ぜんそくなどの公害大国でもあった日本からも、プラネタリーヘルスに関して世界に向けた発信が行われることを期待したい。

中村安秀(公益社団法人日本WHO協会理事長)[新型コロナウイルス感染症][SDGs]

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