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【識者の眼】「エセ『フェムテック』にご注意を」柴田綾子

No.5141 (2022年11月05日発行) P.62

柴田綾子 (淀川キリスト教病院産婦人科医長)

登録日: 2022-10-26

最終更新日: 2022-10-26

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「フェムテック」とは女性の健康課題を解決するためのテクノロジーを表す造語(female+technology)です。タイトルにある「エセ」とは、偽物や質の悪いものを表す接頭詞です。フェムテック市場が急速に増大する中で、出てくる製品やサービスの中に、効果の医学的根拠が乏しいものや、検査や介入する必要性が不明なもの、不必要に不安を煽ったり、広告表現が医学的に適切ではないものが見られるようになってきました。

1. 腟ケアの効果について

更年期の女性に多い閉経関連泌尿生殖器症候群(genitourinary syndrome of menopause)に多い外陰部の乾燥や瘙痒感には、外陰部への保湿剤(特別なものは不要で全身用保湿剤でも可)やエストロゲン局所投与(腟剤など)が推奨されています1)。また、妊娠中や産後、更年期以降の尿もれには骨盤底体操の効果が報告されています。一方で、腟のマッサージ等で女性ホルモン量が増えたり、全身的な美容効果の報告はありません。

2. 妊活サプリメントについて

現時点では、特定の栄養素やサプリメントで妊娠率を高められるものは報告されていません。米国生殖医学会では、健康的な食生活は排卵障害による不妊リスクを低下させるという研究報告がある一方で、排卵障害のない女性では低脂肪食品、ビタミン剤、抗酸化食品、ハーブ製品が妊娠率を高めるという根拠はないとしています2)

3. 自己検査キットについて

医師による検体採取と比較して自己検査でも検査感度の高いHPV(感度86〜97.8%)3)やクラミジア・淋菌検査(感度90〜98%)4)の自己検査キットは、WHOのセルフケアガイドラインでも活用が推奨されています(WHO guideline on self-care interventions for health and well-being, 2022 revision)。一方で、女性ホルモン検査や抗ミュラー管ホルモン値は、結果の解釈が難しく、更年期障害や妊孕性の診断には使用できないことに注意が必要です。

フェムテックの強みとして、自分の体や心の健康への意識を高めたり、異常を早く発見することで早期治療につなげやすくする、健康維持を支援するというものがあります。その反面、医療や健康に関連する技術やサービスであれば、エビデンスや質の保証、また、検査やサービス介入による悪影響がないか等を評価管理することが必要だと感じます。

【文献】

1)関口由紀, 他:日女性骨盤底医会誌. 2020;17(1):24-9.

2)Practice Committee of the American Society for Reproductive Medicine and the Practice Committee of the Society for Reproductive Endocrinology and Infertility. Electronic address:asrm@asrm.org:Fertil Steril. 2022;117(1):53-63.

3)Cantor A, et al:JAMA. 2021;326(10):957–66.

4)Mulki AK, et al:BMC Women’s Health. 2021;21(1):12.

柴田綾子(淀川キリスト教病院産婦人科医長)[女性の健康課題]

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