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【識者の眼】「COVID-19と抗ウイルス薬(2)―急性ウイルス感染症で効果を得る難しさ」西條政幸

No.5125 (2022年07月16日発行) P.61

西條政幸 (札幌市健康福祉局・保健所医療政策担当部長、国立感染症研究所名誉所員)

登録日: 2022-06-29

最終更新日: 2022-06-29

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前号では、「COVID-19と抗ウイルス薬(1)」と題して、COVID-19に対する抗ウイルス薬開発が、いかに画期的な出来事であるかを論じた。今回は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者に対する抗ウイルス薬(抗体製剤を除く)の処方のあり方に関して考察したい。

改めて抗ウイルス薬が存在するウイルス感染症を挙げると、ヘルペス、インフルエンザ、肝炎、HIVなど限られた感染症だけである。このうち、数ある急性ウイルス感染症の中で抗ウイルス薬が存在するのは、COVID-19のほかには、ヘルペスとインフルエンザだけである。抗ウイルス薬はウイルス増殖を抑制することで効果を発揮することから、急性ウイルス感染症に対する抗ウイルス薬による治療は、早期投与が原則である。ヘルペスの代表例である水痘患者やインフルエンザ患者に抗ウイルス薬投与の十分な治療効果を得るためには、概ね発症2日以内に投与が開始されなければならない。

さて、この事実をふまえると、COVID-19に対する抗ウイルス薬が存在するからと言って、決して安心することはできない。現在のCOVID-19患者(疑い例を含む)の隔離を前提とした医療提供体制では、疑い患者は発熱外来を予約して受診したり、検査予約をしてから受検したりしなければならない。COVID-19患者の多くは、発症してから数日後に発熱外来を受診し、SARS-CoV-2検査を受ける。検査の種類によっては検査結果を得るのに1日以上の日数を要する。患者数が多い時には検査を受けるまでにさらなる日数を要する。抗ウイルス薬による効果を得るのに理想的な発症早期に抗ウイルス薬の内服を開始できるCOVID-19患者はほぼいない。抗ウイルス薬の処方を患者にとって有効なものにするほどには、COVID-19患者に対する医療提供体制が十分に追いついていない。

他にも大きな課題がある。COVID-19に有効とされる抗ウイルス薬は、ワクチン非接種COVID-19患者を対象に評価されている。ワクチン接種だけでも軽症化、発症予防効果が期待されるので、ワクチン接種を受けている患者では抗ウイルス薬による効果は一層限定的となり、むしろ、ワクチン接種患者においては効果は認められない可能性すらある。

上記のように、急性ウイルス感染症の場合、よい薬があったとしても、高い効果を得ることは難しい。インフルエンザウイルス感染症やCOVID-19に罹患している患者に抗ウイルス薬を投与・処方する場合には、患者の年齢、病状推移、発症からの日数、ワクチン接種歴等の情報をふまえて、抗ウイルス薬投与の必要性が慎重に判断されることを期待したい。

西條政幸(札幌市健康福祉局・保健所医療政策担当部長、国立感染症研究所名誉所員)[医療提供体制][ワクチン接種]

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