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【識者の眼】「日本人の死因と敗血症」松嶋麻子

No.5107 (2022年03月12日発行) P.62

松嶋麻子 (名古屋市立大学大学院医学研究科救命救急医療学教授、日本敗血症連盟)

登録日: 2022-02-21

最終更新日: 2022-02-21

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昨年9月に公表された2020年の死亡統計によると、日本人の死因の第1位は悪性新生物(27.6%)、第2位は心疾患(15.0%)、第3位は老衰(9.6%)、第4位は脳血管疾患(7.5%)、第5位は肺炎(5.7%)となっている1)。一方、敗血症は2020年の死亡総数に占める割合は0.7%、死者数は9799人、人口10万人あたりの死亡率は8.0と報告されている。人口10万人あたりの死亡率を比較すると、悪性新生物307、心疾患166.7、老衰107.5、脳血管疾患83.5、肺炎63.6であるため、敗血症は死亡統計上、ほとんど無視されるほど、インパクトは小さいように見える。しかし、臨床現場では何らかの感染症をきっかけに敗血症に陥り、死亡する患者は死亡統計の数字よりはるかに多いという印象を持つ。

そこで日本敗血症連盟(Japan Sepsis Alliance:JaSA)は日本の急性期病院で使用されるDPC(diagnosis procedure combination)データの解析を行い、2010〜17年の入院患者5049万128人を対象に成人敗血症の患者数と死亡者数を算出した2)。敗血症は入院患者のうち、血液培養を採取して何らかの抗菌剤を4日以上投与した患者の中から、血管作動薬、人工呼吸、腎代替療法のいずれかを導入したもの、またはICD-10で肝障害、血小板減少、凝固障害、アシドーシスを示すいずれかの病名が付いているもの、とした。

結果は、入院患者に占める敗血症患者の割合は年々増加しており、2017年では4.9%(35万5833人)、敗血症による死亡者数は5万6905人(入院患者1000人当たり7.8人)だった。2017年の時点で全国の急性期病院の約7割がDPCシステムを導入していることを考えると、敗血症による成人の死亡者数は全国で推定約8万1000人、敗血症患者がすべて急性期病院に入院していたと仮定すると人口10万人あたりの敗血症による死亡者数は約68人と推定できる。この数字は2020年の死亡統計では脳血管疾患に次ぐ第5位となり、敗血症が日本人の死亡に大きく影響していることがわかる。

敗血症は基礎疾患を持つ患者に合併することが多く、敗血症によって死亡した場合でも、死亡診断書ではその背景にある他の疾患が主病名として記載される。このため、上述のように死亡統計からは敗血症による死亡が少なく見積もられてきた。今回、JaSAの解析によって敗血症が日本人の主要な死亡原因となっていることが明らかとなり、JaSAではこれをもとに今後、さらに効果的な敗血症の予防や対策につなげていきたいと考えている。

【文献】

1)厚生労働省:令和2年(2020)人口動態統計月報年計(概数)の概況.

   https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/nengai20/dl/gaikyouR2.pdf(最終アクセス日 2022年2月19日)

2)Imaeda T, et al:Crit Care. 2021;25(1):338.

松嶋麻子(名古屋市立大学大学院医学研究科救命救急医療学教授、日本敗血症連盟)[敗血症の最新トピックス

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