株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

CLOSE

【識者の眼】「冬のスリップ事故」鈴木隆雄

No.5106 (2022年03月05日発行) P.56

鈴木隆雄 (Emergency Medical Centerシニア・メディカル・アドバイザー)

登録日: 2022-02-14

最終更新日: 2022-02-14

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

かつて救急で働いていた頃のこと。正月気分も終わった冬の2月頃、しばしば運び込まれてきたのが凍結した道路でのスリップ事故。温暖な西日本では、雪国と違い凍結した道路も太陽が昇るとすぐに溶けていく。問題は山の斜面で日光が当たっていない場所や鉄橋部分。直線道路はまだしも、残っている凍結部分がカーブの途中からあると、そこでスリップし道路横の樹木などに衝突、その結果二輪車では死亡や脊髄損傷の症例も発生した。患者が救急病院に搬送され、しばらくして現場検証した警察の方が来院し「先生、またあのいつもの曲がり角ですよ」と言う。

今でもその場所を通ると当時を思い出す。だが、いまだに対策は講じられていない。不景気になると景気対策の公共事業で、道路や護岸工事、農業県では農道等もどんどん整備されていく。でも事故防止には必ずしも結びついていない。事故は平日早朝の通勤・通学の時間帯で、二輪車の事故は多くが将来ある若い人達だった。骨折がなくてもMRIで脊髄に白い変化を見つけると本当にがっくりした。この事故を道路使用者だけの責任にしていいのだろうか。

最近は公共事業も費用対効果が問われる時代。事故防止策で考えてみよう。全国の道路を細分化し各部分での事故率、原因、季節性、死亡率、障害の内容といったデータ。事故時の交通の流れなどの社会現象。天候という自然現象、およびその町全体における将来の土地計画。以上の情報はすべて存在する。それらに人の行動心理を掛け合わせ事業に仕上げる。事業は土木工事とは限らず、あらゆる科学技術を駆使した結果である。その事業予算と、事業で救われる人の生涯の総生産額を比較。その費用対効果が正ならば、事故防止策という予防医学が、町の経済発展にも貢献する。

補足として、費用対効果が正にならないのは、単に既存アイデアに頼っているから。新しいアイデアを出せない企業は生き残れない。公共事業も同じであろう。

鈴木隆雄(Emergency Medical Centerシニア・メディカル・アドバイザー)[交通事故][公共事業]

ご意見・ご感想はこちらより

関連記事・論文

もっと見る

関連物件情報

もっと見る

page top