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【識者の眼】「診療所における新型コロナ診療の現状─続報」水野泰孝

No.5089 (2021年11月06日発行) P.51

水野泰孝 (グローバルヘルスケアクリニック院長)

登録日: 2021-10-26

最終更新日: 2021-10-26

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本年3月6日号で新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の概要を報告したが、それ以降7月頃からデルタ株による大きな流行の波が押し寄せた。東京都では8月13日に新たな感染者数が国内発生以来最多の5773人を記録し、都内中心部にある当院でも発熱患者・検査陽性者数が急増した。小児事例も相次いで確認され、これまで多くみられていた家庭内での同居家族からの感染例だけでなく、高熱を主症状とする小児同士の感染例や小児から同居する成人への感染事例も目立つようになった。

当院の直近4カ月の検査陽性率は6月:0%、7月:57.9%、8月:55.2%、9月:8.7%、10月:0%だった。SARS-CoV-2核酸検出時のCt(threshold cycle)値が低い事例も目立ち、同時期のCt平均値(中央値)は7月:18.25(17.43)、8月:19.87(20.22)、9月:25.42(24.78)だった。また8月中旬頃までは多くの陽性者がワクチン未接種者または1回のみ接種者だったが、9月以降に受診した発熱患者の多くがワクチン2回接種者で、検査陽性率は激減した。さらに詳細な問診でも、これまで陽性者の多くに共通して確認されていた「多人数・長時間・マスクなしの会話」機会のある受診者がほとんどみられなくなったことからも人々の行動変容が如実に現れていることを実感した。

COVID-19が疑われるまたは不安に思っている有症者がまず訪れる診療所でのこのような動向は、公的機関が発表するデータに反映されていると思われるが、第5波が急激に収束に向かった明確な理由は結論づけられていない。しかし、9月以降に受診する多くの患者のワクチン接種率や発熱患者の行動形態の変化を実感するところを鑑みれば、「職域接種などで急速に進んだワクチン接種完了者の増加による集団免疫の獲得」「急速に拡散したデルタ株による感染者および重症者の増加とその影響による本来入院が必要とされるはずの自宅療養者増加の現状を目の当たりにした都民の不安や恐怖心からくる行動変容」の2つの変化が主要因ではないかと考えている。

ただ疑問に思うのは、緊急事態宣言が解除され、行動制限緩和が進んでいく状況であっても、実効再生産数や検査陽性率が上昇に転じることなく1カ月以上持続的に下がり続けていることである。ピーク時には次々と感染伝播が起こっていたワクチン未接種集団の小児同士での感染事例も減っていることや、急激な減少をもたらすほどの行動変容がどれほど持続できるものなのか等を鑑みると、病原体の変化による感染力の低下も収束への影響を及ぼしているのではないかと推測される。

水野泰孝(グローバルヘルスケアクリニック院長)[新型コロナウイルス感染症]

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