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【識者の眼】「マスギャザリング感染症─コロナ禍におけるさらなる対応の必要性」水野泰孝

No.5074 (2021年07月24日発行) P.54

水野泰孝 (グローバルヘルスケアクリニック院長)

登録日: 2021-07-12

最終更新日: 2021-07-12

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マスギャザリング(mass gathering)とは様々なイベントで様々な地域の人々が多人数集まることを意味し、日本集団災害医学会では「一定期間、制限された地域において、同一目的で集合した多人数の集団」と定義されている。オリンピック・パラリンピックはその代表的なイベントであることから、まさに大会期間中の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の国内での感染拡大をどこまで抑え込むことができるかが、議論されるところである。

マスギャザリングにおける主な感染症発生事例として、サウジアラビアでのメッカ巡礼の際の髄膜炎菌感染症やインフルエンザの発生がよく知られている。このほかにも、2002年米国・ソルトレークシティで開催された冬季オリンピックでのインフルエンザ発生、2014〜15年米国・カリフォルニア州のテーマパークへの訪問者を契機に発生した麻疹の流行、2015年山口県で開催されたスカウトジャンボリーにおいて海外からの参加者が日本国内で髄膜炎菌に感染して帰国後に発症した事例などは誌上でも報告がある。このようなイベントにおけるリスクアセスメントとして4つの視点が挙げられている1)

①開催地における既存の健康リスク:通常に発生しているリスクで介入を必要とするものとして、食中毒、ワクチン予防可能疾患、呼吸器感染症、蚊媒介感染症などが挙げられる。

②イベント期間中の健康リスク輸入の可能性:参加者と訪問者の人数と性質、参加者の国籍、開催国の国民の免疫状態などが要因となる。

③イベント後の健康リスクの輸出の可能性:開催国で発生している感染症に罹患する場合があり、現在の日本ではCOVID-19をはじめ麻疹や風疹の発生などにより、期間中に罹患して本国へ輸出されるリスクがある。

④テロのリスク:バイオテロにより致死的な感染症の発生が起こる可能性がある。

これらの多様なリスクに対してはサーベイランスと報告体制の確立、対応する体制の確立が必要となり、行政機関との協力体制が欠かせない。イベントにかかわる機関が多岐にわたるために、感染症発生時には迅速な対応ができるように指揮系統を明確にする準備が必要となる。今回の東京大会においてはCOVID-19への対策に多くの労力を割かなければならないが、マスギャザリングイベントとしてCOVID-19以外の感染症発生の対策を講じることも忘れないようにしなければならない。

【文献】

1 World Health Organization:Public health for mass gatherings:key considerations. WHO, 2015.

水野泰孝(グローバルヘルスケアクリニック院長)[オリンピック・パラリンピック]

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