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【識者の眼】「敗血症などの重症急性病態に対する副腎皮質ステロイド療法」藤島清太郎

No.5075 (2021年07月31日発行) P.67

藤島清太郎 (慶應義塾大学医学部総合診療教育センター・センター長)

登録日: 2021-07-08

最終更新日: 2021-07-08

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副腎皮質ステロイドは生体の恒常性維持に欠かせないホルモンであり、様々な抗ストレス反応にも関わっている。一方、高用量では広範かつ強力な抗炎症作用を発揮することから、広く炎症性疾患に対し投与されている。

先般出版された日本版敗血症診療ガイドライン2020において、敗血症に対するステロイド療法の推奨が、何れもシステマティック・レビュー(SR)に基づき改訂された。まず、ショックを合併しない患者には弱い非推奨となった。敗血症性ショックに対しては、2つの推奨を並記した。1つは前版と同じく、ショックからの離脱目的でのステロイド(ヒドロコルチゾン)少量投与の弱い推奨で、もう1つはヒドロコルチゾン+フルドロコルチゾン投与の弱い推奨で今回新たに加わった。投与量としては1日あたりヒドロコルチゾン200mg、フルドロコルチゾン50μg程度が想定されるが、後者は敗血症に対する保険適用がなく、これまで推奨されていなかったので、今後臨床における評価が必要である。

ステロイド治療の対象となる類縁病態としては急性呼吸促迫症候群(ARDS)があり、近々出版予定のARDS診療ガイドライン2021では、低用量ステロイド(メチルプレドニゾロン1〜2mg/kg程度)が強い推奨、高用量ステロイド(メチルプレドニゾロン30mg/kg)が弱い非推奨となる予定である。

さて、昨年から世界を震撼させている新型コロナウイルス感染症(COVID-19)も、重症例は高率に敗血症やARDSを合併することが知られている。当初から様々な種類、用量の副腎皮質ステロイド療法が行われ、その有効性や有害性が報告されてきた。このように単一原因による病態においても治療成績に不均一性を認めることは、様々な病原微生物による敗血症、多様な基礎疾患に続発するARDSに対する臨床試験の困難さを改めて示している。現時点では入院を要するCOVID-19患者に対するデキサメタゾン6mg(プレドニゾロン換算約40mg)/日の有用性を示した大規模RCTの信頼性が最も高く、今や中等症以上に対する標準治療となっている。ステロイド療法に関しては多くのSRが公表されているが、様々な薬剤・投与量・投与期間の研究を一括りに解析している点に注意が必要である。単独の大規模RCTで十分なエビデンスが示されている場合は、探索的治療を除き、まずはRCTに準じた治療を行うべきであろう。さらに、難治例、再燃例に対し探索的治療を行った場合は、その結果を新たなエビデンスの構築に繋げることが大切である。

藤島清太郎(慶應義塾大学医学部総合診療教育センター・センター長)[敗血症の最新トピックス⑳]

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