株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

CLOSE

(易怒性+精神不安定+不眠)×抑肝散(加陳皮半夏)[漢方スッキリ方程式(52)]

No.5072 (2021年07月10日発行) P.14

千々岩武陽 (博多やすらぎクリニック院長)

登録日: 2021-07-07

最終更新日: 2021-07-07

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

 

ここ最近,コロナ禍による社会不安の影響を反映してか,外来で不眠を訴える患者数が増えてきている。

不眠症は大きく①精神医学的不眠,②生理学的不眠,③薬理学的不眠,④身体的不眠,⑤心理学的不眠などに分けられるが1),中でも⑤は「神経症性不眠」と呼ばれ,不眠症の多くを占めている。

近年,オレキシン受容体拮抗薬やメラトニン受容体作動薬など,新世代の睡眠導入剤が使用されるようになり一定の効果を挙げているが,実際の臨床場面では今なおベンゾジアゼピン(BZ)系の睡眠導入剤が用いられることが少なくない。BZ系の薬剤は即効性が期待できる半面,連用による精神的依存性,健忘,転倒といった問題点が数多く存在するため,安易な処方は慎まれるべきである。その点,漢方薬を神経症性不眠に用いることは,安全性の高さ,依存性や耐性を形成しないことからも有用な治療選択肢の1つとなり得る。

老若男女問わず幅広く使える名処方

不眠に用いる漢方薬として筆者は,酸棗仁湯加味帰脾湯黄連解毒湯抑肝散加陳皮半夏)などを用いることが多い。酸棗仁湯は,心身共に疲弊しすぎて,かえって眠れなくなるケースに適応となり,老人の熟眠困難にもしばしば効果的である。加味帰脾湯は,不眠以外に抑うつ傾向や神経過敏傾向,とりわけクヨクヨ思い悩む「繊憂細慮」傾向の胃腸虚弱者に奏効しやすい。黄連解毒湯は,赤ら顔や頭部の充血傾向があり,精神興奮を伴う中等度以上の体力を有する不眠症患者に良い適応となるが,黄芩,山梔子などの生薬が含まれるため,肝機能異常や長期使用による腸間膜静脈硬化症の発生には十分に留意する。

今回の症例でも取り上げた抑肝散だが,近年,認知症患者のBPSDに有効な処方として知られるようになってきた2)。その作用機序としては,セロトニン神経系の賦活作用,グルタミン酸神経系の抑制作用で説明がなされている。老若男女問わず,イライラしやすく「怒り」の感情を伴う不眠や精神不安定に幅広く使用できる名処方であり,筆者は母親の子育てストレスに伴う不眠や,会社内の人間関係に苛立つサラリーマンの不眠に頻用して,良い効果を挙げている。

時に当帰や川芎の精油成分に対して胃もたれを起こす者がいるが,胃腸虚弱者や抑うつ傾向を伴う者には,半夏と陳皮が加わり消化器症状改善作用や抗うつ作用が強化された抑肝散加陳皮半夏の方が適している。


関連記事・論文

もっと見る

関連書籍

関連物件情報

page top