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【識者の眼】「コロナ禍のTwitter─ナッジ理論の後押しと抑うつ傾向」倉原 優

No.5071 (2021年07月03日発行) P.63

倉原 優 (国立病院機構近畿中央呼吸器センター内科)

登録日: 2021-06-15

最終更新日: 2021-06-15

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医療SNSというテーマでコラムを書いているが、東京都健康長寿医療センター研究所からある研究が発表された1)。SNSの利用状況と精神的健康度を解析したところ、Twitter利用者では精神的健康度が低かったというものだ。私は俗にいう「ツイ廃」(Twitter廃人の略語)と呼ばれる人間だが、残念ながら精神的に不健康ということになる。

研究グループは、ランダムに抽出した2万人以上に住民調査を行い、LINE、Facebook、Twitter、Instagramの使用頻度と精神的健康度との関連を調べた。回答を分析すると、18〜39歳ではInstagramの定期閲覧、40〜64歳ではFacebookの定期発信、65歳以上ではLINEの定期利用(発信&閲覧)が良好な精神的健康と関連していた。しかし、Twitter定期利用(発信&閲覧)は、悩み・抑うつ傾向が強くなることが示された。

Twitterは「便所の落書き」と揶揄されるほど、大量の情報が流れていくし、リツイートされない限り注目もされない。ただ、個人的にはコロナ禍におけるナッジ理論の後押しには、Twitterは有用と考える。ナッジ理論とは、人がより良い行動をしやすくするきっかけを作り、後押しする手法である。たとえば、レジに並ぶ際のソーシャルディスタンスを奨励するための足跡シールなどがそうである。強制するわけではなく、自然とそう選択したくなる考え方(リバタリアン・パターナリズム)が根底にある。シカゴ大学の行動経済学者リチャード・セイラー氏が確立したナッジ理論は2017年にノーベル経済学賞を受賞しており、まさに「便所の落書き」研究が有名である。「的に狙いを定める」という人間の心理を利用し、便器にハエの絵を描くことで、床に小便を飛び散らせないよう行動変容を促したもので、オランダの空港の清掃費を大きく削減する効果をもたらした。

「便所の落書き」であったとしても、Twitterの総合訴求力は高い。情報の質の高低はあるが多数の人にナッジをはたらきかける点で機能的に有利である。反面、誤情報を信じる人同士でグループを作り、悪い方向へエコーチャンバーが作用することもある。こうしたアンチの人たちに啓蒙的にはたらきかけている実名のインフルエンサーの抑うつ傾向が強くならないか、心配である。

【文献】

1)Sakurai R, et al:PLoS One. 2021;16(3):e0246090.

倉原 優(国立病院機構近畿中央呼吸器センター内科)[医療SNS]

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