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【識者の眼】「神経発達症群:相対評価の臨床で感じる懸念」本田秀夫

No.5070 (2021年06月26日発行) P.58

本田秀夫 (信州大学医学部子どものこころの発達医学教室教授)

登録日: 2021-06-03

最終更新日: 2021-06-03

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今年の5月4日、筆者らの研究グループが行った自閉スペクトラム症(ASD)に関する調査がオンライン掲載された(Sasayama D,et al:JAMA Netw Open. 2021;4(5):e219234.)。全国の診療データベースを用いて医療機関でASDと診断された子どもの累積発生率を調べたところ、2009年度〜2014年度に出生した子どもにおけるASDの累積発生率は5歳で約2.75%であった。出生年が後ろになるにつれて累積発生率は増加していた。5歳以降も診断数は増え、2010年度生まれでは9歳時の累積発生率は5%に達していた。1980年代まで自閉症は0.05%前後と考えられていたが、この30年で2桁多いという話になっている。その要因は、診断概念の拡大や知識の普及によるところが大きい。一方で、医療者として複雑な思いもある。

ASDを含む神経発達症群(知的障害・発達障害)は、生来的に知的機能、対人行動、集中力、学習能力などの発達が平均から大きく逸脱することによって、社会生活に何らかの支障をきたす場合に診断される。この「平均からの逸脱」、すなわち診断が相対評価によって行われることが、神経発達症群の特徴である。客観的指標を用いた絶対評価が用いられる身体疾患では、例えば近視のように日本人の過半数が診断されるという事態も起こり得るが、相対評価を用いる神経発達症群では、診断される人は常にマイノリティであることが含意される。

神経発達症群ではさらに、社会生活の支障が診断の要件となる。相対的なマイノリティの人たちにおける社会生活の支障には、当事者の問題だけでなくマイノリティに対する社会のあり方も影響を及ぼす。多様性に寛容でマイノリティの尊厳が認められやすい社会では、発達に平均からの逸脱が多少あっても社会生活の支障をそれほど感じずにすむ可能性がある。しかし、全体主義的で逸脱に不寛容な社会では、わずかな逸脱でも強く支障を感じることになる。

正規分布では、平均から2標準偏差以上の逸脱が約2.3%である。相対評価が診断の目安となる場合に、これを超えて診断例が増えている背景の一部には、社会の狭量化によってやむなく診断されるケースの増加が含まれているのではないかと懸念している。

本田秀夫(信州大学医学部子どものこころの発達医学教室教授)[子どもの精神科医療]

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