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【識者の眼】「高齢者用薬剤を作ってください」武久洋三

No.5069 (2021年06月19日発行) P.69

武久洋三 (医療法人平成博愛会博愛記念病院理事長)

登録日: 2021-06-01

最終更新日: 2021-06-01

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日本人の薬好きは有名である。薬をたくさんもらっても、家の中に飲まなかった薬の山ができている高齢者も多い。高齢者は80歳以上ともなると、体重は減少し、かつ腎臓や肝臓の機能低下が生じる人も少なくない。多くの薬剤は血中タンパクと結合して安定するが、高齢者は血中アルブミン値も低下するため、多くの薬剤が血中タンパクと結合せず、フリーの薬物濃度が上昇してしまう。すると薬剤による副作用が強く出ることによって、身体障害を起こすことが多い。

東京大学の秋下雅弘教授が10年以上前から高齢者への多剤投与について、薬理作用が強く出すぎることがあるのでよく注意するようにと提言をされてきた。そして2016年度診療報酬改定でも、薬剤総合評価調整加算250点が新設され、入院中に内服薬の数を2種類以上減らした場合には、退院時に1回算定できるようになった。

30歳と80歳の人が100mを走ると仮定して、30歳の人は15秒で走れても80歳の人はその倍近く、ひょっとしたらもっとかかるだろう。何より100mを走れない人がほとんどかもしれない。要するに体力が若者の半分以下しかない高齢者が多い可能性が高い。

子供の場合は小児用薬剤が作られており、成人の1/2くらいの量から、乳幼児はごく微量のものもある。ところが残念ながら高齢者用の薬は探しても見つからない。体力や臓器の機能が成人の半分しかない高齢者には、1つの錠剤を半分か、より体重の少ない人には1/4に割って投与することもしばしばである。もちろん80歳でも良く肥えていて、めちゃくちゃ元気な高齢者もいるものの、それでも身体の機能はそれなりに低下しているのだ。

日本は高齢化がどんどん進行してゆくのだ。小児用薬剤があるように、ぜひ高齢者用薬剤を作ってほしいと思っているのは私だけではないだろう。小児と同じ体重でも小児用と高齢者用の薬は確実に違う必要がある。少ない量の薬は、効率が悪く利益が少ないから作らないというような企業姿勢では社会的正義に反するかもしれない。これからの超高齢社会に向けて、ぜひ高齢者用薬剤を製造して販売していただきたいと強く要望する。

武久洋三(医療法人平成博愛会博愛記念病院理事長)[超高齢社会]

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