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【識者の眼】「『解雇』はどうしていけないのか?」川﨑 翔

No.5066 (2021年05月29日発行) P.65

川﨑 翔 (よつば総合法律事務所東京事務所所長・弁護士)

登録日: 2021-05-12

最終更新日: 2021-05-12

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顧問先のクリニックから「問題を起こすスタッフを解雇したい」という相談は度々寄せられます。しかし、「解雇は極めてリスクがあり、業務の改善を求めるか、自主退職していただいた方がいい」というアドバイスを差し上げることがほとんどです(使用者側の弁護士のほぼ全員が同じようなアドバイスをするでしょう)。解雇のケースで、使用者側弁護士が弱気ともとれる態度をとるのには、3つの理由があります。

一つ目は、解雇事案でクリニック側(使用者側)が裁判で勝つことが、極めて難しい点です。労働者側から「解雇が無効である」と主張された場合、クリニック側が敗訴するケースがほとんどです。当事務所が扱った事案でも、解雇が有効と判断されたケースは、数えるほどしかありません。

二つ目は、敗訴した場合の金銭的ダメージです。裁判において「解雇が無効」と判断されると、裁判が終わるまでの期間の給与を支払わなくてはなりません。例えば、裁判が終わるまでに1年かかったのであれば、全く働いていない当該スタッフに対して、1年分の給与を支払う義務が生じます。経営へのダメージもさることながら、他のスタッフの士気を下げることにもつながりかねません。

三つ目は、診療と関係のない部分に人的リソースをとられる点です。裁判に対処するため、院長からのヒアリングや打ち合わせ、場合によっては法廷での尋問とその準備といった対応が必要になり、多くの時間を費やすことになります。また、当該スタッフが労働組合に加入し、団体交渉を求めてきた場合は、裁判に比べてさらに時間や人的リソースをとられることもあります(労働組合から団体交渉を求められた場合には、これに応じる義務があります)。

上記のような事情を知らず、「問題のあるスタッフは解雇すればよい」というアドバイスをする第三者が多いのも事実です(社会保険労務士の先生でも、解雇無効と判断された場合のダメージについて具体的にご存じない方もいらっしゃるようです)。解雇されたスタッフ側が特に行動を起こさず、幸いにも問題が顕在化しなかったケースが、当然の帰結であるかのようにインターネット上で紹介されていることもあります。

スタッフの解雇に踏み切る前には、必ず弁護士に相談してください。各クリニックの事情に応じて、最善の解決策を一緒に考え、代理人として行動してくれるはずです。

川﨑 翔(よつば総合法律事務所東京事務所所長・弁護士)[クリニック経営と法務]

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