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【識者の眼】「『健康食品を使ってみたい』と聞かれたらどうする?」大野 智

No.5053 (2021年02月27日発行) P.60

大野 智 (島根大学医学部附属病院臨床研究センター長)

登録日: 2021-01-28

最終更新日: 2021-01-28

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私事であるが日本緩和医療学会教育セミナーにて、補完代替療法をテーマに講演する貴重な機会を頂戴した。講演タイトルは本稿のタイトルと同じである。読者の皆さんは質問してきた患者に対してどのように答えるだろうか? 少し古いデータになるが、癌の医療現場では約8割の医師は、健康食品などの補完代替療法の利用について“推奨”も“禁止”もしていないことが明らかとなっている1)。質問への回答に苦慮しつつ悩んだ末での結果なのか、無関心の表れなのかは不明だが、患者の立場からすれば相談したことへの答えになっていないことは想像に難くない。

そもそも、患者は補完代替療法に何を期待しているのだろうか? 以前、本欄(No.5036)でも紹介したが、患者の多くは補完代替療法に「精神的な希望」を抱いている。裏を返せば、補完代替療法の利用は医療現場で患者の精神的なケアが十分に行われていないことの証左かもしれない。筆者個人の経験に基づく内容で恐縮だが、補完代替療法の相談を受けた時の対応(コミュニケーション)のコツを紹介したい。

本稿タイトルに対する答えとしては「健康食品を使ってみたいと思った理由を教えてもらえますか?」になる。そして、患者が抱える不安や悩みを丁寧に聞き出し、解決・解消するために何ができるか一緒に考える姿勢を示す。留意点として患者が何に対して不安や悩みを抱えているかは千差万別であり、時に非科学的・非現実的な訴えをする場合があるかもしれないが、安易に否定しないよう心がけていただきたい。その上で、もし補完代替療法を利用すると判断した場合は、患者の利用目的に関する科学的根拠を批判的に吟味した上で情報提供を行う。ここで科学的根拠の有無だけで判断するのではなく、健康被害、経済被害、機会損失などの問題点(本欄No.5015参照)にも留意していただきたい。なお、「補完代替療法を利用しない」という選択肢は常にあることも忘れないでもらえたらと思う。

【文献】

1)Hyodo I, et al:Cancer. 2003;97(11):2861-8. 

大野 智(島根大学医学部附属病院臨床研究センター長)[統合医療・補完代替療法⑭]

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