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「抗認知症薬の増量規定と個別化医療」[長尾和宏の町医者で行こう!!(55)]

No.4776 (2015年11月07日発行) P.17

長尾和宏 (長尾クリニック)

登録日: 2016-09-08

最終更新日: 2017-02-09

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  • 4種類の抗認知症薬と増量規定

    認知症とその予備群を合わせて800万人という時代を迎えた。日本ではアルツハイマー型認知症(AD)に対して現在、ドネペジル、ガランタミン、リバスチグミン、メマンチンの4種類の抗認知症薬が保険適用である。いずれも認知機能やADLが低下する勾配を緩やかにするというエビデンスがある。しかし抗認知症薬は降圧剤や血糖降下剤と違い、飲んですぐにその効果を実感できるものではない。年単位で見て進行を遅らせるという薬であるので、家族から「治るのですか?」と聞かれたら、「改善を実感できる人もいますが、あくまで長い目で見て効果があるという薬です」と説明している。

    ドネペジルの場合「1日1回3mgで開始して1~2週間後には5mgに増量する」という規定がある。5mgで効果不十分な場合や、高度認知症には10mgへの増量が推奨されている。添付文書には「なお、症状により適宜減量する」とのただし書きがあるものの、実態は異なっている。他の3つの抗認知症薬においてもドネペジルにならい3~4段階の増量規定が定められている。

    レセプト査定の現状はさまざま

    ドネペジル3mgで調子が良くても、5mgに増量した途端に明らかに興奮する人が存在する。また暴力、歩行障害、嚥下障害などで介護負担が増大することも少なくない。本来、こんな場合は薬を減量ないし中止すべきで、レセプトの摘要欄に理由を書けば3mgに戻すことが認められている都道府県が多いという。しかしコウノメソッドの提唱者である河野和彦医師は、レセプトの摘要欄にコメントを書いたにもかかわらず「査定」をされ続け「損害額」は約400万円にも上るという。私自身も同様の経験をしてトラウマになっている。知人に聞いてもさまざまな声があり、現状、レセプト査定状況は地域や審査員によりかなりばらつきがあるようだ。「従わないと査定されるかもしれない」という意識があるので、増量規定に従っている医師が多い。

    河野医師は2007年からドネペジルの増量規定が生み出す諸問題を指摘してきた。本来なら減量ないし中止を考慮すべき場合に、逆に「薬が効いていない」と判断して10mgに増量する医師のほうが圧倒的に多い。するともちろん易怒性はさらに激しくなり、強力な鎮静剤や向精神薬が必要となる。するとフラフラして転倒→寝たきり→食事量低下→胃瘻という循環に入る。つまり増量規定による「造られた認知症」、さらに言えば「医原病としての認知症」が増えているのではないか。

    本来、脳に作用する抗認知症薬こそ、その時のその人に合う量を探すさじ加減が大切で、個別性が求められる。しかし4種類の抗認知症薬は、いずれも3~4段階の増量規定が定められ、それに縛られているのが現状だ。

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