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【識者の眼】「ノーベル生理学・医学賞:C型肝炎ウイルス発見の恩恵は計り知れない」清澤研道

No.5035 (2020年10月24日発行) P.48

清澤研道 (相澤病院消化器病センター名誉センター長、同肝臓病センター顧問、信州大学名誉教授)

登録日: 2020-10-13

最終更新日: 2020-10-13

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去る10月5日、2020年のノーベル生理学・医学賞の受賞者が発表された。C型肝炎ウイルス発見に貢献したHarvey J. Alter(NIH)、Michael Houghton(Alberta University)、Charles M. Rice(Rockefeller University)の3氏である。待ちに待った嬉しいニュースであった。かつてはB型肝炎ウイルスを排除後も輸血後肝炎は一向に減らず、非A非B型肝炎と呼称されていた。慢性肝炎、肝硬変、肝癌にも非A非B型肝炎は多く見られ、特に日本においては患者が多く第二の国民病と呼ばれ社会問題化していた。原因ウイルスの発見をめぐり熾烈なハンティング競争が長く続いたが不毛に終わっていた。しかし1988年、ウイルスの断片がHoughton氏率いるカイロン社研究陣によって発見された。そのニュースはカイロン社のプレスリリースという異例の形で報告された。この背景には多くの研究者が関わっていた。元国立感染症研究所所長の宮村達男氏もその一人である。その中で3氏に決まった理由は以下である。

Alter氏は非A非B型肝炎(C型肝炎)のウイルスの存在をチンパンジー実験で最初に証明したことに加え、有名な“Alterのパネル血清”で診断薬の確実性を証明した。Houghton氏は、C型肝炎ウイルスの遺伝子を奇想天外な遺伝子工学的手法により釣り上げ、診断薬作成に導いた。Rice氏は、C型肝炎ウイルス遺伝子を徹底的に解析し構成遺伝子の役割を明らかにするとともに、ウイルスを人工的に複製する方法の樹立に成功し、抗ウイルス薬の開発に貢献した。

C型肝炎ウイルス発見後は診断法、治療法が開発され、臨床現場に即座に還元された。輸血後C型肝炎はほぼ消滅した。C型の慢性肝炎、代償性肝硬変患者は内服治療薬によりウイルスはほぼ100%排除可能となり、肝細胞癌患者は減少しつつある。C型肝炎ウイルス発見の恩恵は計り知れないものがある。ノーベル賞受賞は至極当然である。

しかしまだ問題点はいくつかある。世界にはC型肝炎患者が7100万人いると言われている。世界保健機関(WHO)は2030年までに地球上から撲滅することを目指しているが道程は遠い。また治療薬は高価であり世界にくまなく浸透するのは容易でない。最も重要な課題はC型肝炎ウイルスワクチンの開発である。速やかな開発が望まれる。我が国の問題点としては、C型肝炎ウイルス検査を受けていない人がまだ多くいることである。

私個人としてはAlter氏と共同研究をし、C型肝炎の自然経過を明らかにし、肝細胞癌の原因になることを明らかにできたのは幸せなことであった。

清澤研道(相澤病院消化器病センター名誉センター長、同肝臓病センター顧問、信州大学名誉教授)[2020年ノーベル生理学・医学賞]

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