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【識者の眼】「家族の評価なしで患者を精密に診られるか」上田 諭

No.5029 (2020年09月12日発行) P.58

上田 諭 (戸田中央総合病院メンタルヘルス科部長)

登録日: 2020-09-02

最終更新日: 2020-09-02

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新型コロナウイルス感染予防で、面会禁止となっている病院、病棟が多い。それによって、長期間家族に会えない患者の心理的不安のほか、治療に影響を与えかねない多くの問題が現れているようだ。その一つに、通常なら面会に来ている家族の声を医療者がまったく聞けないという状況がある。

家族は、どんなベテランの医療者以上に、患者である肉親の小さな変化を感じることができるのではないだろうか。表情が暗く元気がない、様子がいつもと違う、身体の動きが良くない、などの悪い変化のほか、改善して良くなった変化も、ふだんすぐ近くで接してきた家族が、一番敏感で正確に感じられるはずだ。家族の感じ方だけでなく、患者自身が言えない本音や治っていない部分を医療者に対して代弁する役割もあった。

医療者は、自分の医学的知識・技術に基づいた評価をし、それを信じている。医師は特にそうだろう。診察、検査データ、患者の様子を通じて、いかに精密に評価できるかが医師の重要な技量でもある。しかし、それが家族の評価や見方といつも一致しているとは限らない。家族の評価の方が、より直感的に患者の状態を正しく表している場合がある。医師が患者家族とたまたま対面して話をしたとき、「まだこの点が良くなっていない」という趣旨の声を聞かされて、意外な視点に治療の振り返りを迫られることは、少なくないのではないか。誠実な医師であれば、「十分治療効果があった」と思える患者の状態について、家族からも必ず見方を聞こうとしているはずだ。

コロナ禍の病棟ではそれができない。もちろん、医療者や医療ソーシャルワーカーは家族に病棟に来てもらって情報交換したり、電話を通じて連絡を取ったりしている。ただ、家族は直接見ていない患者のことを話すことができない。家族の目による貴重な患者状態の評価情報を、医師は得ることができなくなっているのである。医師や看護師は、自分の評価だけに頼るしかなくなり、それを過信してしまっていないか。本当に患者を精密に正しく診ることができているかどうか、常に自戒して診療に当たりたい。

上田 諭(戸田中央総合病院メンタルヘルス科部長)[コロナ禍の医療]

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