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【識者の眼】「フレイル(虚弱)を予防して、豊かに生きよう」垣添忠生

No.5027 (2020年08月29日発行) P.60

垣添忠生 (日本対がん協会会長)

登録日: 2020-08-11

最終更新日: 2020-08-11

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現在のわが国の高齢者の定義は65歳以上となっているが、平均寿命が延びている中で、75歳以上と定義し直しても良いのではないか。現に、2017年に日本老年医学会からはそうした提言がなされている。そうすると、75歳から85歳となっても元気で生活できることが、個々人にとっての大きな目標になるだろう。

健康寿命という言葉がある。医療や介護に依存しないで、自立して生きられる期間を指す。世界保健機関(WHO)はこれを、「心身ともに自立し健康的に生活できる期間」と定義している。

2016年のわが国の統計では、男性の平均寿命が81歳、健康寿命が72歳なので、その差は約9歳となる。女性の場合、それぞれが87歳、75歳なので、その差は約12歳となる。9年から12年、これだけの期間を医療や介護に頼って生きることは、本人の辛さはもちろんのこと、国家にとってみれば医療費、介護費用も莫大なものとなる。従って、健康寿命を延ばすことは国家の大きな目標となる。もちろん、各人が取り組むべき重要事項ともなり得る訳だ。

老人にとって身体面での最大の課題は筋力の維持といえる。筋肉量が減り、筋力が落ちると、行動範囲が激減する。すると、新しい人との接触も減るし、外に出ない生活はさらに筋力を低下させる。

こうした老化と共に起きる筋力の低下は、フレイル、ロコモ、サルコペニアと呼ばれている。フレイルは虚弱を意味し、2014年に日本老年医学会が提唱した。ロコモはロコモティブ・シンドローム(運動器症候群)の略で、2007年、日本整形外科学会が提唱した。サルコペニアは、ギリシャ語で「筋肉と喪失」を指す。

筋力の衰えと共に、家のほんの僅かな段差につまずいて転倒し、骨折する事故が非常に多い。年を取ると、前脛骨筋(膝と足を繋ぐ脛骨と腓骨の間にある細い筋肉)が萎縮し、足尖がドロップフットとなり(つま先が垂れ下がり)僅かな段差やコードなどにひっかかるからだ。

これを防ぐために、現在79歳の私は毎朝、足尖の上げ下げを100回繰り返している。何年も続けていると、前脛骨筋が盛り上がってきて、登山でも転ばなくなった。スクワットも有効だ。スポーツジムなどに通わなくとも、ちょっとした自重トレーニングを毎日続けることが、健康寿命を延ばす上でとても大切と思う。

垣添忠生(日本対がん協会会長)[健康寿命]

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