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【識者の眼】「カルテの記載と危機管理─診療報酬返還と医療事故に注意」川﨑 翔

No.5027 (2020年08月29日発行) P.63

川﨑 翔 (よつば総合法律事務所東京事務所所長・弁護士)

登録日: 2020-08-07

最終更新日: 2020-08-07

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今回は、カルテの記載と危機管理についてお話ししようと思います。

医師法第24条1項は「医師は、診療をしたときは、遅滞なく診療に関する事項を診療録に記載しなければならない」と規定しており、カルテは法律に規定された重要な文書です。一方で、カルテの記載方法について、体系的に習ったという先生はほとんどいらっしゃらないのではないでしょうか。

カルテには、診療のための備忘録、診療報酬請求のための記録、医療事故等の証拠といった様々な側面があります。かつては診療のための備忘録という側面が強かったので、必要最小限の記載で、記載した先生のみが理解できるというものも多かったと思います。しかし、危機管理という側面からすると、記載には注意する必要があるでしょう。

「診療報酬請求(保険請求)のための記録」という側面では、十分な記載がなかったことを理由に、診療報酬の自主返還を求められるというリスクがあります。例えば、特定疾患療養管理料について「治療計画に基づく、服薬、運動、栄養等の療養上の管理内容の要点」の記載がないとして、自主返還を求められるケースが散見されます。診療の際、患者さんにアドバイスを行っていたとしても、「カルテの記載がなければ、保険請求を認めない」というのが厚生局の見解です。忙しい診療時間の中で、詳細な記載をすることは極めて難しい部分がありますが(個別指導の指導医療官からも「患者さんが多く、お忙しいのはわかっていますが」と言われることも)、個別指導で指摘されやすい部分については、気を付けておくというだけでもリスク管理できると思います。

「医療事故等の証拠」という点でもカルテは極めて重要です。最近では、乳腺外科医の準強制わいせつ事件の控訴審判決において、カルテに「術後覚醒良好」との記載があり、術後せん妄に関する記載がないという点が有罪のひとつの理由として挙げられています。トラブルが予想される事案については、患者の行動や発言を含めてカルテに記載しておくことが重要です。

記載の程度については、「同じ診療科の医師が、当該カルテだけを見て、診察の状況を再現できる」というのが一つの指標だと考えています。

川﨑 翔(よつば総合法律事務所東京事務所所長・弁護士)[クリニック経営と法務]

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