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【識者の眼】「経口広域抗菌薬処方の見直しが課題」具 芳明

No.5025 (2020年08月15日発行) P.57

具 芳明 (国立国際医療研究センター病院AMR臨床リファレンスセンター情報・教育支援室長)

登録日: 2020-07-31

最終更新日: 2020-07-31

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世界保健機関(WHO)は抗菌薬適正使用を進めるための指標としてAWaRe分類を2019年に採用した。これは薬剤耐性(AMR)対策の観点から抗菌薬をAccess(まず使用すべき基本的な狭域抗菌薬)、Watch(限られた状況でのみ使用すべき広域抗菌薬)、Reserve(耐性菌に対する最後の手段として大切に使うべき抗菌薬)の3群に分類したものである。たとえばアモキシシリン(ペニシリン系経口抗菌薬)はAccess、セフカペンピボキシル(第3世代セファロスポリン系経口抗菌薬)やレボフロキサシン(キノロン系抗菌薬)はWatch、ファロペネム(ペネム系経口抗菌薬)はReserveに分類されている。WHOは各国で使用されている抗菌薬のうちAccess群の割合を2023年までに60%以上にすることを目標としている。

日本の抗菌薬使用量は諸外国と比して特に多いわけではない。しかし、広域抗菌薬の使用割合が高いことが大きな課題である。世界76カ国で2000〜15年に使用された抗菌薬をAWaRe分類で評価した論文(https://doi.org/10.1016/S1473-3099(20)30332-7)によると、日本はAccess群の割合が世界で最も低く(13.9%)、Watch群の割合が最も高かった(83.9%)。使用量の多くを占める経口抗菌薬を中心に広域抗菌薬が多く用いられているため、Watchの割合が他の国々と比べ極端に高くなっているのである。日本国内のサーベイランス結果をみると、ここ数年はAccess群の割合が徐々に高まっているものの、Watch群が大部分を占めている状況は変わりがない(http://amrcrc.ncgm.go.jp/surveillance/020/20190902163931.html)。

もちろん国によって事情が異なるため、この分類だけですべてを判断することはできない。しかし、諸外国と比較しても広域抗菌薬の割合が極端に高いことからは、臨床現場での抗菌薬の選択に課題があると考えざるをえない。日本政府もこの課題を認識しており、2016年の薬剤耐性(AMR)対策アクションプランでより高い削減目標を立てた経口セファロスポリン系(の多く)、マクロライド系、キノロン系はいずれもWatch群に含まれている。念のため、慣れているからといった理由で必要以上にスペクトラムが広い抗菌薬を選択していないか、点検の意識をもって診療にあたる必要がある。

具 芳明(国立国際医療研究センター病院AMR臨床リファレンスセンター情報・教育支援室長)[AMR対策]

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