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【識者の眼】「IgEのアレルギー誘導活性は糖鎖が決める?」楠 隆

No.5025 (2020年08月15日発行) P.60

楠 隆 (龍谷大学農学部食品栄養学科教授、滋賀県立小児保健医療センター小児科非常勤医師)

登録日: 2020-07-27

最終更新日: 2020-07-27

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食物アレルギーのよくある誤解の一つに「ある食物に対する血中特異的IgEが陽性であればその食物に対するアレルギーがあり、除去する必要がある」という思い込みがあります。これは誤りであり、たとえ特異的IgE陽性でも食べてアレルギー症状が出ない人もいることはアレルギーを診療する医師なら常識となっています。しかしながら、なぜ食物特異的IgEが同じように陽性なのに食べて症状が出る人と出ない人がいるのかについては、実はよくわかっていません。

その疑問に一つの答えを出す研究が最近のNature誌に掲載されました1)。著者らはピーナッツアレルギー患者由来のIgEと健常者由来のIgEを比較して、付着する糖鎖の組成に違いがあり、アレルギー患者由来IgEの糖鎖末端にはシアル酸が有意に多く結合していることを見出しました。さらにマウスやヒトのリコンビナントIgE抗体を用いた実験で、シアル酸を除去したIgEではマスト細胞表面の受容体や抗原に対する結合能は変わらないにもかかわらず、マスト細胞活性化能が有意に低下していました。シアル酸を除去することで細胞内へのシグナル伝達を抑制する糖鎖の部位が露出する可能性が示唆されました。さらに著者らは、IgEの定常領域とシアル酸切断酵素(neuraminidase)をくっつけたフュージョン蛋白を受容体に結合させて細胞表面上のIgEに作用させることで、IgEを介するマスト細胞活性化が著明に抑制されることを示しました。

これらの結果は、IgE自体は同じでも翻訳後の糖鎖修飾(とりわけ末端のシアル酸化)の違いがIgEのアレルギー誘導活性に強く影響することを示しています。これからはIgEの糖鎖に注目することがアレルギー診療や研究の鍵となる可能性があります。

【文献】

1)Shade KTC, et al:Nature. 2020;582:265-70.

楠 隆(龍谷大学農学部食品栄養学科教授、滋賀県立小児保健医療センター小児科非常勤医師)[食物アレルギー]

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