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【識者の眼】「相手方の書面と情報戦」川﨑 翔

No.5021 (2020年07月18日発行) P.69

川﨑 翔 (よつば総合法律事務所東京事務所所長・弁護士)

登録日: 2020-07-09

最終更新日: 2020-07-09

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先生方は、SNSの投稿やウェブの記事を見ていて、医師が書いた文章かそうでないかというのは、感覚的に判別できるのではないでしょうか。弁護士も同じで、文章を書いた人物が弁護士なのか、そうでないのかを見分けることができます。裁判上の書類など、文章を作ることを生業にしているため、見分ける精度はかなり高いと思います。

一番わかりやすいのは「契約書」ですね。弁護士から見て、条文の多くは自然な表現なのに、特定の条文の表現だけ不自然というケースがあったとします。そうすると「ひな形を使って契約書を作った」「不自然に見える条文だけ、弁護士以外が追加修正した」ということがわかります。つまり、不自然に見える条文が相手方に有利になっていないかを検討する必要があります。

契約の相手方が「契約書作成に慣れた法務部がない」または「顧問弁護士がいない(顧問弁護士と密に連絡をとっていない)」ということもわかります。この場合、対症療法的に条文の追加修正を行っている可能性が高く、条文相互で矛盾したり抵触する条項がないかを確認する必要が生じます。当方に有利な条項に変更するよう交渉すべき場合も生じるでしょう。

トラブルの相手方(クレーマーや問題のある従業員)が出してくる文章(通知書など)にも同じことが言えます。弁護士が書いた文章でないということであれば、解決水準や着地点について、法的な検討を経ていない可能性が高くなります。相手方の感情に配慮しつつ、合意形成を妨げている事情は何なのかを丁寧に探っていくことが重要です。

一方、弁護士が作成した文章とわかるのであれば、相手方は弁護士のアドバイスに従っていると考えられます。そうだとすると、法律を超えた不当な請求をしてくることは少ないでしょう(最近弁護士の数も増えてきたので、根拠もなく無茶苦茶な請求をしてくる代理人がいるのも事実ですが)。

契約書や通知書といった、相手方から出される文章から察知できる情報というのは意外と多く、書面での情報戦を制するというのは結構重要なことだと思っています。

川﨑 翔(よつば総合法律事務所東京事務所所長・弁護士)[クリニック経営と法務]

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