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【識者の眼】「新型コロナウイルス蔓延時のがん検診─4000人のがんが発見されない恐れ」垣添忠生

No.5020 (2020年07月11日発行) P.58

垣添忠生 (日本対がん協会会長)

登録日: 2020-07-01

最終更新日: 2020-07-01

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公益財団法人日本対がん協会は、精度管理のゆきとどいたがん検診を実施する、わが国最大クラスの検診機関でもある。全国42のグループ支部で、例年だと、年間1100万人の検診を行い、約1万3000人のがんを発見している。

ところが、新型コロナウイルスの蔓延とともに、今年前半、特に3月から、各支部でのがん検診は減少し始め、4月、5月はほぼゼロとなった。たとえ今年後半に沢山の人々ががん検診を受診しようとしても、各施設のキャパシティーを超えて対応しきれない可能性もある。予測では、今年度のがん検診は通常の3割減と見込まれている。となると、約4000人に近い人たちのがんが発見されないことになる。中には進行の速いがんもあるので、救命できない恐れも出てくる。病気そのものを発見できないことも、見逃せない医療崩壊だ。

新型コロナ蔓延下で、重度肺炎などで亡くなった人は、6月時点では1000人ほどである。他方、がんは今や国民の2人に1人が一生のうちにかかり得る病気となり、年間100万人ががんとなり、約38万人が亡くなっている。コロナ騒動の下でも、密かに、静かにがんになる人、がんで亡くなる人は増え続けている。亡くなる人のインパクトはコロナの比ではない。コロナが収束しても、がんは収束しないのである。

新型コロナは、わが国の社会に計り知れない影響を与え、人々の生活もパラダイム・シフトせざるを得ない。検診バスに多くの受診者が乗り込むという従来のがん検診は「三密」になりやすく、新しい状況下に適した実施方法・内容等も見直さなければならないだろう。だが、当面、焦眉の急は未発見の数千人のがん患者である。コロナが少し鎮静化してきたら、国民にも行政にも冷静な対応をお願いしたい。

「GO Toキャンぺーン」で観光に力を入れるのも良いが、現下の状況でもがんで生命を落とさないことの重要性は変わることはなく、強く訴えておきたい。

垣添忠生(日本対がん協会会長)[がん検診]

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