生命の危機に際して重大な意思決定を要する場合に対象者の7割は自己決定できない状態にあるという。事前指示書やエンディングノートの効用には限界も指摘されている。人生会議という言葉の語義を一回性と捉えてしまうと、実効性に疑問がわく。
一方、日々の臨床現場で遭遇する言葉やエピソードには、対象者の好みや嫌いなこと、人生観や死生観が現れている可能性がある。医療者は、患者の重要な言葉を聞き出す傾聴や問診を心がける必要があり、聴取した情報はできる限り逐語的に記録することを心がけたい。対象者に、より頻回により長時間接する介護従事者もまた、職能の役割として聴取や記録を意識してほしい。それらの共有が本人の意向実現の鍵になる。
当地で導入している地域ICTベンダーに要望し、「ACPに資する情報」が記載された記事にACPというタグを付ける機能を設けた。これにより、ボタン一つで「ACPに資する情報」が記載された記事を一覧表示できるようになった。その最上部の欄には、治療方針や人生会議出席者候補一覧を記入できる。人生会議を開催するにあたり、どんな情報をもとに意思決定を下すのか、誰を招集するのかに役立てられることはもちろんだが、そもそも「ACPに資する情報」を縦覧できるだけでも、対象者の意向や時間経過の中での変遷、そして、話し合いの深まりを認識することができる。このように、ACPは医療と介護が力を合わせて日々現在進行形で行う営みだということを明瞭に認識したい。
ACPだけではない。介護事業所が有する対象者の生活情報には、自宅では測定困難な体重の推移、排便の履歴や性状、転倒や誤嚥のエピソード等、医療的な判断を下す際に役立つ重要な情報がある。医療者にとって有益な生活情報について、把握した介護従事者が地域ICTに記録することによって、真の意味での多職種協働が期待される。
川越正平(あおぞら診療所院長)[ACPに資する情報][人生会議出席者候補一覧]