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【識者の眼】「新型コロナウイルス感染症で浮き彫りになったSDH前編:患者が難民にならない体制を」西村真紀

No.5012 (2020年05月16日発行) P.65

西村真紀 (川崎セツルメント診療所所長)

登録日: 2020-05-07

最終更新日: 2020-05-07

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新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に立ち向かう現場の皆様、大変お疲れ様です。人々の健康や医療が政治に影響されていることをこれほど感じさせられた時代はなかったと思います。第5回は、COVID-19に伴うSDH(social determinants of health、健康の社会的決定要因)について、前編後編にわけて考えていきたいと思います。

まず前編ではCOVID-19の診断や治療とSDHについて考えます。保健所のマンパワー、PCR検査体制、集中治療のベッド数、医療物資の不足によって患者の診断や治療に格差が生じています。自宅待機で孤独死を招いた悲惨な例もありました。PCR検査は偽陰性が多いことや検査施設の体制の問題に伴い、その対象者の範囲については様々な意見があります(私は現段階では、軽症者に対しては医学的には不要、社会的に必要という意見です)。ここではその議論はしませんが、診断の白黒つけたい患者さんや家族の気持ちは計り知れないものがあります。罹患の不安があるのも当然ですが、患者さんには生活がかかっているからです。本人も家族も診断がはっきりしないまま自宅待機をすることは容易ではありません。帰国者・接触者相談センターに電話がつながらず、クリニックでPCR検査を断られ続けてさまよい、多くの医療機関を受診してしまう人がいます。一方でクリニック側では、施設構造の問題やPPE物資の不足などで自施設でのPCR検査検体採取が困難な場合もあります。COVID-19疑い症例の紹介先探しに苦労されている例も多いと聞きます。

医療がフリーアクセスであり国民が特定のかかりつけ医を持たない日本において、今回のCOVID-19は国民に受診の自己判断とセルフケアという課題を与えました。外国人、認知症患者、独居の高齢者など、もともと情報に疎い人々には支援が必要です。人との接触を避けなければならない今回の感染症は身近な支援をさらに遠ざけています。

以上述べてきたような構造上の問題は末端の医療機関の努力だけでは解決しません。科学的で効果的な国の政策が必要です。すべての患者が難民になることなく受診できる医療体制を地域全体で作っていく必要があります。PCRセンターを作り始めた自治体も多くあります。患者が困った時、まずは相談できるかかりつけ医の必要性を検討する時が来ていると思います。国には、この未曾有の感染症との各国の戦いを十分分析し、日本の医療体制を見直し改善することを期待しています。

西村真紀(川崎セツルメント診療所所長)[SDH⑤][新型コロナウイルス感染症

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